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3章「相手は、煙草味のキスをする男でした」 (1)★

今更新分は無理矢理シーンも含みます。苦手な方は回避ください。 ୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧ 「尚紀」  優しい声に、尚紀は嬉しくなり幸せを噛み締めながら、相手の胸に飛び込んだ。 「愛してる」  その言葉は誠実で、気持ちが込められたものだとわかる。尚紀も、僕もです、とうっとり答えた。  身体はその相手の香りに煽られて、いつでも迎える準備はできている。  相手が、受け入れる場所に指を添えてきた。刺激におもわず腰が揺れ、甘い声が漏れる。ぬるぬるだね、と嬉しい声が聞こえてきた。 「はやく……。きてください……」  舌足らずな口調で強請って、両脚を広げ自ら無防備に受け入れる体勢を見せる。この人にならば恥ずかしいけど、見せられる。……見てくれたら嬉しい。  相手は口元が綻び、尚紀の膝頭に触れて脚をさらに広げた。滑りのある体液に塗れたデリケートな場所が冷たい空気に触れる。この人の視界に晒されていると思うと、恥ずかしい以上に嬉しくなる。唯一無二のアルファの支配下に置かれ、大切にされていると思えるからだ。 「いくよ」  大きな欲望をあてがわれたのが感覚でわかる。  滑りを借りてぐっと入り込まれ、わずかな衝撃と嬉しさと快感で腰と背筋が揺れた。  この人が自分の中にいる。  初めての感覚に身が震える。身体中が敏感になり、気持ちが込み上げて視界が揺れて、涙が溢れた。 「いい子だ。素直に飲み込んでいるよ」  相手に優しく実況されて少し恥ずかしいが、そう喜んでくれているのが何より嬉しい。尚紀は手をかざして、相手の肌と体温、そして唇を求めた。  温かくて、柔らかい唇が重なる。いい香りがして、気持ちが良くて。いつまでもこうしていたい。口付けだけで達してしまいそう。  尚紀は幸せな気分に包まれていた。 「おい、いい加減起きろ」  聞き覚えのない冷たい声に加え、頬を乱暴に叩かれて意識が戻る。  えっ誰、と咄嗟に思う。  自分が置かれた状況がわからず、尚紀は混乱した。  今自分は何をしているのか……と疑問に思ったが、意識がはっきりしてくるに従い、自分が置かれている立場を認め、驚き慄く。  声をかけて頬を叩いたのは、目の前にいる男のようだった。よく見れば先ほど乱暴に尚紀を車に乗せたスーツ姿の男だ。いや、今は先ほどとは少し異なり、ワイシャツ姿で……。  いやまて。そこじゃない。  完全に覚醒して、尚紀は混乱した。  なんでこんなことになっているのだ!  辺りは暗く、自分が全裸でベッドに仰向けに横たわり、脚を大きく開き、その奥の場所に男を受け入れていたのだ。 「えっ……!」 「ようやく正気に戻ったか」  驚いて、思わず尚紀が逃げの体勢を打とうとすすると、男はそのまま腰を突き動かし、尚紀の中を抉った。  下半身にあった異物感に刺激が加わる。 「んっ……」  それが、驚くくらい腰にダイレクトに衝撃が加わった。生まれて初めて経験する感覚。  戸惑いや疑問、恐怖といった全ての思考が、一瞬、吹っ飛んだ。  持っていかれたくなくて、必死にシーツを掴む。なのに男はお構いなしに、尚紀を攻めたてた。 「あっ……あ!」  アルファから煽られる感覚に、無意識に腰が揺れた。思わず、目に涙が浮かんで、視界が滲む。 「初めてみたいだな。にしては、よく咥え込んでる」  男が満足げに呟く。  自分は、この男に抱かれている……。  血の気がさぁっと引いていくのを感じた。  なんで。  なんで。  なんで。  どうして?  どうして?  なんでこんなことに?  混乱が止まない尚紀の身体を、男は構わず抱き上げ、繋がったまま体勢を変える。  しかし、尚紀はそこでとっさに身体を捩った。男から逃げたくて、離れたくて、身を引いたのだ。    尚紀に埋めらていたものは、するりと抜けた。  しかし、男の腕が伸び、身体を絡め取られ、背後をとられる。  シーツに肩を押さえつけられ、今度は背後から容赦なく、いきなり貫かれた。 「あああぁ!」  痛みはなかったが、衝撃がすごかった。  男は無言で、そのまま背後から追い立てる。  肩を抑えられつけたまま、腰を高く掲げられて、がつがつとピストンで煽られる。  肩を抑えられては動くこともできない。 「ヤンチャだな。やってくれるじゃないか」  男は余裕の口調で呟く。  怖い……。  敵わない力に支配されている大きな恐怖と混乱が、尚紀の気持ちを掻き回す。  あまりのことに、涙が出てきた。  熱い涙が顔を伝い、シーツに染み込む。     自分はいま、本当に取り返しがつかない状況に追い込まれているのではないか。 「気持ちよかったら啼けよ。中に出してやるかな」  そう男は言うと、その場所から大きく出したり、ぐっと突き上げたりと絶妙な腰づかいを始める。その衝撃と快感に耐えられず、尚紀は声を漏らす。  アルファが漂わせる圧倒的な存在感と蠱惑的なフェロモンに、尚紀の判断力は徐々に鈍り、恐怖心が曖昧になり、オメガの部分が快感を拾い始める。   「はあ……っ」  男の香りに惑わされ、意識が朦朧となってくる。気づけば、自ら腰を振り、その男の動きにかちあわせるように腰を揺らしていた。 「ほう、やるじゃん」  アルファのフェロモンが怖い。そう思いながらも、それでも身体は欲望に素直で、夢中で男から快感を搾り取ろうと、勝手に反応する。    一際男が強く突き上げた時に、尚紀は、あうっと小さく呻き達した。  身体がびくんと揺れて、きゅっと締まった。すると、その衝撃で、背後で男が無防備に呻いた。  温かいものが胎内に注がれるのを感じた。これはこの男の……。

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