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4章(3)
柊一の自宅は、個室が三つに、リビングとダイニングを兼ねた部屋がある3LDKという間取りで、そのうちの一室を自分の部屋として使っていいと言ってくれた。
部屋には布団とシーツが置かれていて、あとは好きに使っていいらしい。
尚紀はあのあとしばらく柊一に縋って泣いた。一日にして自分の運命が変わってしまったというその翻弄ぶりに自分の気持ちがついていかなかった。
翌日、柊一は夏木に連絡を入れてくれていて、尚紀が自分の携帯電話の行方と自宅への連絡を気にしていることを伝えてくれた。
彼によると夏木は一言、わかった、とだけ答えたという。
その後どのようなやりとりが交わされたのか、尚紀は知らないが、その次の日には尚紀の携帯電話は手元に戻ってきて、夏木からは家族への連絡は問題ないという伝言だけ。
その素っ気ない対応に困惑する尚紀だったが、柊一が「夏木が全部やってくれたんだと思うよ」と言っていた。
それはすなわち、両親は自分が夏木の手元にいることを許容したということで……。
自分の息子がいきなり見ず知らずの人間の番にされたというのに、親は驚きも憤りもしなかったのかな、と複雑な気分になった。
その夜に、尚紀の携帯電話に母瑞江から連絡が入った。
「貴方の番という方から連絡をもらいました。学校は退学手続きを取ります。
貴方にはほとほと失望しました」
一方的な通告だ。こんな内容を、直接電話をかけてくるわけでもなくメールで済ませるあたりが、瑞江の怒りと失望を表しているようで、尚紀は身体から崩れ落ちるような思いがした。
思い余って父に電話を入れたが、出てくれなかった。
だけど、実家に直接電話をかける勇気は、なかった。
家には居場所がない、家族には疎まれている、学校にも未練はない……そう思っていたのに、大事な場所だった。自分を取り巻く環境なんてこんなものだと思っていても、いざ失ってみると実感としてよぎる。
特に家族は……。
後ろ姿しかあまり記憶にない、家族に興味がない父親や、オメガであることを卑下している母親、目を合わせない兄。
それでもあの西家は、自分の大切な居場所であったのだ……。
仲間。
先日柊一から放たれたその言葉はなんとも言えなくて、予想外に尚紀の気持ちを抉ったが、家族と居場所と自由と身分の全てをいきなり奪われたことに対し、少し落ち着きを取り戻してくると、柊一のその「仲間」という言葉は少し慰めになった。
一人ではない、というのが、尚紀にはわずかな安堵になったのだ。
「そっか……僕は仲間なのか」
そう言葉に出してみるとまた違った感慨。
安堵と自虐がこもった乾いた笑いが、尚紀の口から漏れた。
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