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4章(4)
それでも、いきなり多くのものを番に奪われた尚紀は、しらばく自室で塞ぎ込むことが多かった。
お腹も空かないし、何かをする気になれない。布団に横になって、眠くなったら少しねて、目が覚めてはその上でぼんやりする。薄いカーテンがひかれた窓の外は、わずかに空が見える。その切り取られた風景を、ぼんやりと眺める時間。
身体がいきなりスローダウンした感じだった。
そんなふうに過ごしていたが、どのくらい経ったのか、尚紀には分からなかったが、しばらくして部屋の外から、扉をノックする音と柊一の声がした。
「ねえ、ご飯食べた? こちらで少し一緒に食事しない?」
自室としてあてがわれた部屋は完全なプライベート空間として確保されており、柊一が入ってくることはなかった。
二人の共有エリアと説明されたのはリビングダイニングで、柊一はそちらに食事を用意したと扉越しに誘ってくれたのだ。
共同生活を送るにあたって、柊一からは洗濯や共有部分の掃除、ゴミ出しなどは当番制。食事はそれぞれ好きに、とあらかじめ言われていた。
だから、一緒に住み始めて数日。これまで柊一と一緒に食事を摂ることはなかった。尚紀はあまり食べなかったし、柊一も適当に済ませている様子だった。
尚紀がその誘いに応えて部屋を出ると、四人がけのダイニングテーブルに、器に盛られたお粥と卵スープが二人分、置かれていた。
「どうぞ」
そう柊一に勧められて、椅子に腰掛ける。
お粥の上には、梅干しが一つ乗っていて、シンプル。
柊一に、座って座って、と勧められる。
尚紀には、食事にお粥が選ばれていたのが不思議だった。
それを察した様子の柊一が苦笑する。
「あまり味気があるものじゃないけど、しばらくご飯食べてなさそうだったから。消化にいいものっていうと……って僕の発想力の限界。嫌いだったら、ごめんね」
そう言われて尚紀は自分がかなり柊一に気遣われていることに気がついた。
思わず、両手を振りながら否定する。
「いえっ、そういうわけでは! こっちこそ、用意していただいて……」
すると、柊一がくすりと笑った。
「僕ねー、料理が得意じゃないの」
そう言って、彼がダストボックスに手を入れて取り出したのは、開封済みのお粥のレトルトの袋。買ってきてくれたのかと尚紀は思ったが、柊一は「だから味はお墨付き、美味しいよ」と言いながら、苦笑した。
「美味しいけど、育ち盛りにはちょっと量が少ないのが残念なところだけどね〜」
尚紀は添えられたスプーンを手にして、いただきます、と挨拶してから、そのお粥をすくう。そして口に運んだ。
米のやさしく甘い味わい。そして、口にしっくりと寄り添うような、適度な塩味。
「おいしい……」
思わず漏れる言葉に、柊一が安堵した様子。
「よかった」
そう言って、柊一も目の前でお粥を口に運ぶ。
「うん。美味しいね」
そう言って、二人で無言でお粥と卵スープを平らげた。
尚紀は身体が温かくなり、心が少し落ち着いた気がした。なにより、柊一の気遣いが嬉しかった。
食後、柊一から提案があった。
「嫌じゃなかったらだけど、これからは気が向いた時でもナオキがご飯を作ってくれたら僕は嬉しいな」
それは意外な提案。
「僕が……?」
「そう。さっきも言ったけど、僕ね、料理が得意じゃないの。センスないみたいで」
柊一は、テーブルに肘をついて、尚紀をゆっくり見つめてきた。
「この間は、料理は別々、ご飯も好きな時にって言ったけど、なんか勿体無い気がして。
一緒に住んでるんだから、時々でも一緒に食事をすれば、ご飯も美味しくいただけると思うんだよね」
ね? と柊一は優しく笑う。
「もちろん、毎日なんて言ってないよ。僕だってお湯は沸かせるし、パンを温めたりはできるしね。
もし料理が苦手なら、買ってきたお惣菜でもいいよ。時々でも僕がナオキと一緒に食卓を囲みたいなって思うんだ」
このお粥は美味しかったし、心に沁みた。確かにそうかもしれないと、尚紀は思った。
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