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4章(8)★

 尚紀は夏木に好意を一切持っていなかった。彼への感情を表すならば、嫌悪と恐怖。  たとえば、夏木とのキスは嫌い。自分の思い通りに尚紀が動かないと、すぐに手が出るところはとても怖い。そして、この男は、自分をすぐに犯すことができ、どんなに酷く抱いても、違法とされることはないのだ。  もちろんオメガにだって人権はあるが、番となったアルファとオメガの間は、紙の契約よりも濃い、身体の繋がりができるようで、尚紀は夏木を拒絶することができない。発情期は、彼を受け入れて悦ぶしかないのだ。  尚紀は夏木が仕掛けてくるキスが何より嫌だった。タバコの臭いがするキスは、気持ち悪い。 「ふうん。お前は、キスが嫌なのか」  夏木はお見通しだった。尚紀は聞こえなかったふりをしたが、夏木はあまりキスをすることはなかった。しかし、キスの代わりのように項を噛まれた。それはお前の番が誰なのかを、認識させるような行為に、尚紀には思えた。 「お前がどんな感情を抱いているのか、俺は興味がない。でも、お前の全ては俺のものだ」  夏木は背後から尚紀の中に入り込み、腰を突き上げて尚紀の前を扱いた。小さな喘ぎとともに尚紀が達すると同時に、夏木も短く呻いて果てた。    番との発情期を共に過ごす別宅に、夏木が柊一を連れてきたのは、それからしばらくして。  尚紀が全裸でベッドに横になり、うとうとしている間に、夏木はどこかに姿を消し、気がつくと同じベッドの上に、驚くことに毛布に巻かれた柊一がいた。  発情期だった。  彼は、尚紀の姿を見て、ふわりと笑みを浮かべた。それがこれまでの彼からは見たことないようなもので、尚紀は動揺した。   「そこにいろ」  夏木にそう指示されて、尚紀が動けずにいると、目の前で夏木と柊一の交わりが始まった。 「あっ……真也……!」  仰向きの柊一が両脚を開き、自分で掲げると夏木が柊一の局部をあやしながら、その香りが漂う柊一の奥の部分に入っていく。柊一の歓喜の声が響き、腰が揺れているのが分かった。  脚を夏木の背中にからめ、背筋がしなるほどに身悶え、全身で快感を迸らせる。  オメガはこうやってアルファに抱かれるのか……。  そう思いながらも、いつも尚紀が見ている彼の姿ではなく動揺していた。  キスを交わし、唾液の水音が室内に大きく響いている感じがする。 「ん……ふぅん。あ……ん」  柊一の口から漏れる喘ぎが生々しい。自分もあんな声を出しているのだろうかと思うと、目を逸らしたくなる。 「あっ……! 真也、イく……! イっちゃう!」  そう柊一が叫び、夏木の腰使いが一際激しくなったタイミングで、柊一の喘ぎが室内に響く中、夏木が、ふと尚紀に視線を横した。 「シュウが落ち着いたら、また抱いてやる」 「あーー!」  その言葉と柊一が達する歓喜の声が被った。  尚紀は見てはいけないものを見た気がして、布団を頭から被り、ひたすら時間がすぎるのを待った。

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