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4章(9)

 尚紀が発情の症状が治ったのはその翌日。  すぐに別宅を出され、夏木の部下という男の運転でマンションに戻された。  しかし、柊一はそれからしばらくマンションに帰ってこなかった。  発情期とはいえ、躊躇いなく痴態を見せる柊一の姿が、尚紀の脳裏に焼きついて離れなかった。    柊一がふらふらと自宅マンションに帰ってきたのはそれから一週間ほど経った後。  尚紀が出迎えると、体力を使いまくったとかで、そのまま自室で寝込んでしまった。  彼が復活したのは丸一日ほど経過した後で、シャワーと浴びて出てくると、すっきりした表情で尚紀の前に顔を出した。 「この間はごめんね。僕、発情期に飲まれると人格が変わっちゃうみたいで」  その言葉に、尚紀もどこか納得した。発情期の柊一はいつもとはまったく違っていて、まるで別人のようだった。いや、発情期なのだから、それもあって当然のこと。しかし、あの時の彼はとても妖艶で、尚紀はあまり近づきたくなかった。  そうか発情期に人格が変わるってこともあるのかと尚紀は学ぶ。  ならば、柊一の次の発情期はいつになるのだろう。  尚紀がソワソワしながらそれを聞くと、案の定理由をきかれた。 「……僕たち、発情期が被るとよくないかなって」  そう答えた表情は硬いと尚紀もわかっていた。唇が震える。尚紀にとって、発情期の柊一の姿を見たくはないし、夏木との交わりも目にしたいものではなかった。  それは決して嫉妬などではなく、もっと複雑な感情が絡んでいた。  自分が信頼している人が、怖くて嫌いな人間に本能のまま抱かれている姿を、どうして見たいと思うのだろう。    柊一は尚紀が言った意味を理解してくれたが、真意は察してくれなかった。 「そっか、ショックだったよね。そうだよね、自分の大事な人のセックスなんて見たくなかったよね。番だものね。ごめんね、気遣いできなくて」  柊一はそう言って、泣きそうな尚紀を慰めてくれた。違うのだ。夏木が気になるのではなくて……、と尚紀は首を横に振ったが、柊一はこれからは発情期が被ったら部屋を分けてもらおうねと慰めてくれたのだった。

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