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4章(10)

 それからしばらくして、もう一人同居人が増えた。夏木がさらに番を増やしたのだ。  三人目の番の名前は達也といった。年齢は、なんと尚紀より一つ年下の高校生だった。  やはり、尚紀と同様に初めての発情期を街中で起こしてしまい、偶然通りかかった夏木の手にかかってしまったらしい。  なんというタイミングだと、尚紀は達也を気の毒に思った。完全に境遇が一緒だ 「こいつは、おまえらのなかで一番欲望に忠実な抱かれ方をする奴で、可愛いんだ」  夏木がそう言っていた。それが番にした理由のようだった。ならば、自分はなぜ拒絶したのに夏木に番にされたのか、と疑念がよぎったが、尚紀はあえて聞く気分にはなれなかった。  尚紀は夏木に番にされたことで、家族や帰る家、学校生活などかけがえのないものを失ったショックから、ようやく立ち直りつつある。そんなことを安易に聞いて、納得できない理由で番にされたと知ったら、いよいよ深みにはまりそうだと思ったのだ。  もう番契約を解消することは叶わないのだから、前を向いて生きるために、知らない方がいいこともあると口をつぐんだ。  夏木は、発情期が終わった達也を連れてきて、ここで生活しろと言い、尚紀の時のようにすべてを柊一に押し付けたのだ。  あらためてその強引さに驚く尚紀だったが、柊一はそれを受け入れた。 「タツヤか、よろしくね」  柊一がそう言うと、達也は頷いて握手を交わした。尚紀とも自己紹介をしあって握手する。  達也は、短く刈ったオレンジ色の髪の少年で、市内の公立高校の制服姿。左耳にはピアスの穴が開いている。ヤンチャそうな性格だというのが第一印象。 「ここは合宿所じゃないのにねえ」  そう柊一は苦笑ぎみの表情で呟き、番の奔放な行動に呆れた様子を見せていた。    こうして一つの家で、赤の他人である三人の生活がスタートした。  彼は大家族の生まれであるらしく、この部屋で自分の部屋があてがわれたことを興奮気味に喜んだ。  一つ年下と聞いていたが、尚紀にとっても達也は弟のような感じがした。  聞けば彼は七人兄弟の六番目。大人数の生活も、年上に甘える術もよく知っていた。  当然末っ子体質で、実にあっけらかんとした性格。夏木の番にされたことは仕方がないという考えに至った様子で、ここの生活にもすぐに慣れ、「シュウさん」、「ナオキ」と慕ってくれる。その適応能力の高さは、尚紀が羨ましいと思うほどだった。  尚紀には、タツヤが弟のように思えてきて、可愛く感じた。  三人の共同生活は、なんとなくうまく回り始めていた。

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