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4章(11)
三人の同居が始まりしばらく経って、達也が尚紀の家事を手伝うようになった。
達也が高校に行くことを、夏木が渋ったため、彼も高校を退学した。すると昼間に時間を持て余すようになり、結果として尚紀がやっていることを手伝うようになったのだ。
当初は彼に家事がこなせるのかと、尚紀は心配だったが、これが暇つぶしとしてするには楽しいようで、全くの杞憂だった。そもそも大家族の育ちなので、幼い頃から家事を手伝う習慣が根付いていたそうで拒絶感もない様子。二人でやると料理も掃除も買い物も、格段に効率的でスムーズにいった。
集中して作業をすると午前中にすべてが終わってしまうので、週のうちの何日かは昼食の片付けが終わると、晴れた日には二人で外に出て、近くの公園でバスケをしたり、天気が悪い日には柊一の提案で、参考書を片手に勉強をしたりして過ごすようになった。
夕方には夕食の準備を始めるので、午後二時間くらいが勉強時間やバスケ時間。
タツヤは物事に執着せず、あっさりとしている性格のせいか、尚紀と気が合った。
自然と二人で過ごす時間が多くなる。
バスケはともかく、勉強については達也も得意ではないようで、すぐに集中力を切らしてしまう。
その集中力のなさは尚紀以上で、気づけば彼は大学ノートの端によく落書きをしていた。
参考書と格闘しながら、ふと隣を見ると、達也がなにやら熱心にノートに書き込んでいるのだ。
「え、なにを書いているの?」
気になって尚紀が覗き込んでみると、小さなイラスト。達也は、何枚もノートをめくっては書き込んで、さらにパラパラと確認する。
達也は、夢中でパラパラ漫画を描いていた。
尚紀は呆れて声を上げる。
「もう〜! タツヤ! ここまでの問題解けないとシュウさんに怒られちゃうよ」
しかし達也は尚紀のそのような言葉も、宿題が終わらなかったゆえの柊一の大目玉も全く気にする様子もなく、楽しく落書きをするのだった。
そのような毎日の中で、いくつかの楽しみもできた。たとえば、数日おきに出る買い物の途中で買って食べるコーンアイス。達也に唆されて買ってみたのだが、ことのほか美味しくて、虜になってしまった。
スーパーに行く道すがらに、美味しそうなアイス屋さんがあることを発見してしまったのだ。
最初のしばらくのうちは、尚紀も達也も何も言わずに、ちらりと視線を流しては通り過ぎていたのだが、汗ばむ時期で冷たいものが恋しくなる時期となると、どちらからともなく「冷たいものが食べたい」「アイスが恋しい」という話になり、道中にあるアイスクリーム店にちょっと寄ってみようという話になり、実際にシェアして買ってみたら大層美味しくて、それが買い物の楽しみになってしまった。
最初は達也とこっそり買っていたのだが、柊一から「そんなにおいしいなら僕のも買ってきてよ」と言われ、買い物帰りに三人分のアイスクリームを買って帰ることも多くなった。
それが夏場の楽しみになった。
どんな立場になったとしても、美味しいね、楽しいねと誰かと美味しさや幸せを共有できるのは、尚紀にとって小さな幸福だったのだ。
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