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4章(13)

 夏木真也というアルファを三人のオメガが共有するという、異様な関係性ながらもそれはしばらく何事もなく平和に続いた。  夏木は「番は三人が限度」だと悟ったようで、達也を番にした以降は番を作ることはせず、尚紀たちの生活は三人で続いた。  三人の共同生活で楽しいことも増えた。誰かが発情期で欠けると、少し雰囲気が変わるのは仕方がないのだろうが、それでも限られた生活空間の中で、どうすれば快適に過ごせるのか、この合宿みたいな生活のなかで、尚紀は少しずつ学んでいた。  それと併せて、尚紀はどうにかして夏木に頼らない発情期を過ごすことができないかと模索していた。  自分が発情期になったことで、あの居心地の良い部屋の空気が微妙なものになるのは嫌だったし、それを心配して不安になるのもしんどかったのだ。  導き出された具体的なアイデアは二つ。一つは、発情期そのものを起こさないこと、もう一つは発情期を起こしても夏木を必要とせず一人で乗り越えるというもの。  一つめの発情期を起こさないというのは難しいものがあった。どうしたって数ヶ月に一度の周期で発情期はやって来る。生理現象なのだから仕方がない。  もう一つの夏木を必要とせずに発情期を乗り越えるというアイデアはさらに具体的な方法として二つあった。発情期前に姿を隠すという方法と、発情期で夏木を拒絶するという方法だ。  姿を隠すというのは難しい気がした。一人暮らしならまだしも、共同生活をしていては姿を隠すのは難しい。しかし、外に出るとなると、フェロモンを撒き散らしている状態であるため、危ない。   ならば夏木を拒絶する。  誰かに発情期と思われる症状が出ると柊一が夏木に連絡している。そこで尚紀は二人を説き伏せて、発情症状が見られても夏木への連絡を止めてもらったのだ。  ここからは尚紀の記憶が曖昧で、二人の話によるが、発情期と思われる症状が出て、最初は自室で喘いでいたとのこと。しかし、発情が進むにつれ、尚紀は夏木の香りを求めて部屋中を彷徨ったらしい。  二人にはそれがとても痛ましく見えたようで、柊一が夏木に連絡を入れたとの話。 「きっと番の香りがなくて、無意識に巣作りをしたかったんだろうね」  柊一は後々になってそのように分析していた。  迎えにきた夏木は尚紀の様子にとても驚いたらしい。そして事情を聞くと、舌打ちをして尚紀を担いで別宅に向かったとのこと。  その後も尚紀にはあまり記憶にないのだが、夏木にかなり激しく抱かれたようだった。体力がもたずに、発情期が明けても別宅で二日寝込んでしまい、顛末としてはいつもよりも発情期が長引いてしまった。  さらに、マンションに戻ってくると、柊一に抱きつかれる勢いで、帰還を喜ばれてしまった。無事に発情期を越えられるのか。どのくらいかかるのか。それさえも心配なほどの状態だったらしい。余計に心配をかけてしまった。  尚紀は、最小ダメージで発情期を超えるには、夏木の手を借りる必要があると、ようやく悟った。  ならばどうしたら、最短の期間かつ最低限の行為で発情期を終わらせることができるのか、真剣に探っていこうと考えた。  そんな尚紀の様子に、夏木からは「オメガのくせに発情期が嫌いなのか」と揶揄われた。  あえて口にはしないが少し違う。「オメガのくせに、番と過ごす発情期が嫌」なのだ。  夏木は、おもしろいなと反応した。 「お前は、本当に思い通りにならないな。番なのに。それも面白いんだがな」  夏木はそんな尚紀の姿勢を気に入った様子で、番のアルファを頼らないオメガというスタンスを許容した。  夏木は少し楽しそうでもあった 「お前がどんな感情を抱いているのか、俺は興味がない。でも、お前の全ては俺のもので、お前は俺の手のひらの上だ」  思わず尚紀が厳しい目を夏木に向ける。 「その目はいいな。ぞくぞくする」  夏木は気に入ったらしい。  何よりだと、尚紀は思った。  別に手のひらの上でもいい。  番の夏木を最低限でうまく利用して、ここで強かに生きていくのだと、この時尚紀は達観し、心に決めていた。

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