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4章(14)
「ねえねえ、ナオキ! シュウさんの誕生日、今週なんだって。知ってたぁ?」
十一月に入ると、朝晩の空気は少しずつ冷えてきて、米を研ぐ水が冷たくて手が悴むようになってきた。
家事をこなしてご飯を作る変化の少ない毎日の中にも何気ない季節の変化を見出す。
「シュウさんの誕生日……」
朝、恒例のゴミ出しをしながら、尚紀はそんな話を達也から聞いた。
「そうなの? いつ?」
「十九日だって。昨日教えてもらった」
達也がなぜかドヤ顔を浮かべる。
初めて会ったときの彼の髪はオレンジ色だったが、ここでの生活が長くなって今では黒くなっていた。
「じゃあ、誕生日のお祝いしたいね」
尚紀が何気なく言うと、達也も力強く頷く。
「だよね!」
「で? シュウさんは幾つになるの?」
尚紀の質問に達也は首を傾げた。どうやら聞いていないらしい。まあ、そういう抜けたところも達也の憎めない魅力だと思う。
「誕生日、ケーキ食べたいね〜!」
ああ、と思う。達也のお目当てはそこらしい。確かに、ケーキはあまり食べないけど、甘いものは三人とも好きだ。
尚紀は提案した。
「今日、買い物行ったときに少し見てみる? ケーキ屋さん」
「いいね! 苺が乗ってるケーキとかテンション上がる!」
達也は完全にケーキ目当ての様子だが、自分達は働いていないので、いつも仕事を頑張っている柊一を労うにはちょうど良いイベントだ。
「そうだ、サプライズにしようよ!」
達也のナイスな提案に、尚紀も迷うことなく乗った。
買い物の途中、スーパーに併設されていたケーキ店のショーウインドウに並べられたケーキを見ると、どれもかなりの値段がする。バースデーケーキとしてイメージしていたホールケーキは難しそう。
どうしよう? という達也に、尚紀は作ろっか、と気軽に提案した。
昔、西家に引き取られる前の話だが、死んだ実母が誕生日に作ってくれたケーキが不意に記憶に蘇ったのだ。
それはホットケーキをケーキに見立てたもの。焼いたホットケーキの上に生クリームとカットした苺、フルーツを乗せ、さらにホットケーキを重ねる。三段にして生クリームでケーキのようにデコレーションして、上にはたっぷりの苺。
見た目は豪華な苺のバースデーケーキだ。
苺は甘酸っぱくて、美味しくて。ケーキのようにうまくは切れなかったけど、ホットケーキのバースデーケーキを母と二人でフォークで突っついて食べて、それはそれはとてもおいしかったのだ。
あの味は、どんなにたくさん苺が乗ったケーキでも敵わない気がした。
尚紀が、ホットケーキを焼いて、生クリームと苺をデコレーションしようと提案すると、予想以上に達也のテンションが上がった。
「オレたちでもケーキ作れるんだ!」
どうせだから、四枚くらいホットケーキを重ねて大きいやつ作ろうとさらに言うと、二人で俄然楽しくなってきた。
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