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4章(16)

 柊一の誕生日の朝。  いつもより手際よく掃除も洗濯も済ませた二人は、仕事中の柊一に声をかけて買い物に出る。  前日に買い物リストをこっそり作り、帰宅後の役割分担もしっかり打ち合わせをしていた。  達也はバースデーカードはもちろん、メニュー表もすでに昨夜のうちに準備は完了している。とても賑やかで手が込んだ仕上がりで、彼の才能を垣間見た気が尚紀はしたのだった。  一方、心配事も。  尚紀が最も懸念していたのは、未成年でアルコールが買えるかどうかということ。主役が成人で居酒屋風の誕生日パーティーを企画しているので、可能であればビールも揃えたい。しかし、アルコールの購入には身分証が必要で、未成年者と分かれば購入ができないことは知っている……。 「ナオキはオトナに見えなくもないよ!」  そう主張する達也のアドバイスに従い、少し大人っぽい服装で買い物かごにビールを入れてレジに並んでみたものの、やはり身分証の提示を求められ、購入することができなかった。 「ごめんなさいね〜。未成年者にビールは売れないのよ。今度お兄さんと一緒に来てね」  レジ担当の店員にそのように謝られ、しかしビールはしっかり回収されて尚紀はしょんぼりした。  アルコールが買えなかったことを除けば、おおよそ計画通りに買い物を済ませ、マンションに戻る。  尚紀は副菜とカレーの準備を始め、達也はホットケーキを焼き始めた。決して広くはないキッチンの二口コンロの前で、カレーの鍋とホットケーキを焼くフライパンが並ぶ。  ここにきて……いや、こんなふうにご馳走を自分で準備するのも初めてのことで、考えてみれば生まれて初めてのプロジェクトだ。  達也は本当にどこまでも器用で、ふっくらとしたまあるい正統派ホットケーキを焼いていく。生地の返しも上手い。元々手元が器用であることに加え、教えたことのコツを掴むのも早いタイプなのだ。  達也は順調にホットケーキを四枚焼き上げ、粗熱をとっている間に生クリームを用意し始める。元気が有り余る十七歳、手動の泡立て器で生クリームを攪拌して、みるみる間に作り上げる。尚紀がなんとなくのイメージで話したホットケーキのバースデーケーキは彼の中でしっかりイメージとなっており、それがきちんと形となっていることに尚紀は驚いた。 「だって、ナオキが言ってたのってこういうことだよね?」  達也が鼻歌まじりで苺をカットして、生クリームでデコレーションしている間、尚紀は鶏肉とポテトを揚げて、ポテトサラダを作り、カレーの鍋に仕上げでルーを入れる。   予定していたご馳走が完成する頃にはすでに陽も傾いていて、もうあと三、四十分すれば柊一が疲れたー! おつかれさまー! と言って部屋から出てくる時間だ。  急いで料理を盛り付ける。達也が作ったケーキはそのまま冷蔵庫へ。生クリームとイチゴたっぷりで、中身がホットケーキだとは到底思えない。お店で買ったものよりも、美味しそうで豪華なものが完成した。

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