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4章(17)

「おなかすいたー! おつかれー」  そう言っていつものように柊一が仕事を終えて自室から出てくると、尚紀と達也は声を合わせて柊一を出迎えた。 「シュウさん! お誕生日おめでとう!」  その二人の言葉に、柊一は本当に驚いた様子で、一瞬固まった。 「え? ええ?」  いつもどこか飄々とした雰囲気の彼が、驚いて素の部分を見せていると尚紀は思った。 「あ、誕生日!」  戸惑う柊一を、尚紀と達也はダイニングテーブルに招く。  その上には彼の好物ばかりが皿に盛られて鎮座している。それを見て、テンションが上がったらしい。 「おぉぉぉぉ!」  驚き感嘆する柊一の背後で、尚紀と達也は視線をかち合わせてにんまり笑う。作戦成功をひそかに祝った。 「座って座って!」  達也がそう勧めて、いつものグラスにコーラを注ぐ。 「コーラなんて久しぶりだよ!」  案外がっかりしていないみたいで安堵。 「実は、僕たちアルコール買えなくてさー」  尚紀がそう白状すると、柊一は驚いたような表情を浮かべてから、そうだよね、と頷いた。 「今は買うにも身分証明が必要な場合もあるからね。そうか、ナオキとタツヤはまだ未成年だものね」 「ごめんね」 「いやいや! コーラもいいよ、逆に新鮮……っていうか、ナオキとタツヤが内緒でこんなに準備してくれたんだもんねえ。  ……こんなに嬉しい誕生日なんて……いつぶりかなぁ」  柊一はそう言って、わずかばかりか遠いめをした。  夏木は、たとえ番であったとしても柊一の誕生日に何かを贈るような気遣いや優しさがあるようには思えない。  しみじみと話す柊一の姿に尚紀は悟った。  そういう男なのだ。  おそらく、それはずっと変わらないだろう。これからの人生、自分たちは番から誕生日を祝われることはないのだろう。  だから自分たち三人は、番から得られないものを互いで補い合って、生きていかなければならないのだと、実感した。 「ほら、ナオキ。グラス持って」  そう達也に急かされて、尚紀もグラスを手にする。気を取り直して、目の前の光景を見る。  隣に達也がいて、柊一がいて。  サプライズが成功したバースデーなのだ。 「それでは、ハッピーバースデー、シュウさん! かんぱーい」  達也の音頭で三人がかんぱーいとグラスをかち合わせる。しゅわーっというコーラの炭酸の音がする。テンションも上がる。 「今日はシュウさんの好きなものばかりにしたんだ!」  そう尚紀が言うと、どれから行こうか迷うよ、と柊一が笑って、箸をとった。 「あ、忘れそうだった! メニューもあるらからご注文をどうぞ!」  タツヤが差し出したメニュー表には、今日のお品書きが書かれている。  案の定、柊一は、「居酒屋みたい〜!」と喜んでくれた。  ここでもサプライズ成功だ。 「カレーもあるし、バースデーケーキもあるからさ。ちゃんと入る場所、残しておいてね!」  柊一が目を丸くして驚いた。 「まじで。すごいじゃん!」 「ケーキはねー、達也が作ったんだよ」 「二人ともすごいねえ。僕全くできないから本当に尊敬するよ」  そう言いながら唐揚げに食らいついて、柊一はおいしい! と感激する。 「じゅわってしてホントにおいしいよ! ナオキのご飯食べられるの本当に幸せだな」  柊一はニコニコしている。    彼はいつもそう言ってくれるし、どんなものを作っても完食してくれる。それが奈落の底に落ちた尚紀を奮い立たせ、前を向くきっかけになった。そして、今がある。  その柊一の前向きな言葉に、いつも支えられてきたのだ。 「僕たちも食べようか」 「食べなよ食べなよ! ハラぺこだよね」 「あ、カレーも食べるでしょ」 「食べる食べるー!」    三人で箸をつければ、山盛りに盛り付けた料理が瞬く間に消えていく。  美味しいという感激の言葉が飛び交って、いつも以上に楽しく三人で食事をした。

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