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5章(3)

 野上が、デスクから立ち上がる。かなりの高身長の女性で、丈が短めのネイビーのジャケットに同素材の品のある膝下のタイトスカート。個性を消したようなコーディネイトながら、彼女はもともと持つ煌めきがあるように尚紀には思えた。  綺麗な顔が、尚紀を覗き込む。まっすぐな視線がかちあった。 「あら、写真で見るより可愛い。それに、いい顔つきをしてるわね」  その言葉ですでに自分の写真が流れていたことを知る。 「肌艶も良くていいわ。十代だっけ。若いっていいわねえ!」  顔に手を添えられて、尚紀は少し照れてしまって目を逸らした。すると、その反応が初心な印象にとられたようで、野上はうふふと楽しそうな笑みを浮かべられた。 「あなた、いつもどんなスキンケアをしているの?」  そのように問われて、尚紀は首を傾げる。普通に顔を洗っているだけというと、かなり本気で引いた様子。 「ちょっと、それはよくないわ。若さでどうにかなるのは短い時期だけよ。今日からよ、きちんとなさい」  モデルを目指すならば当然よ、と眉根を寄せて真剣な表情で指示される。  デスクにあったメモ用紙に何かをサラサラと書き付ける。尚紀はそれを渡されたが、今日買って帰るべきスキンケア用品が書かれていた。 「ドラッグストアで売っているものだけど、ないよりマシよ」  そう迫るように言われて、尚紀は素直に頷き、礼を言った。  野上はぐいっと尚紀の視界に入る。この人、天使の絵画のように滑らかで艶やかで健康的な肌だなと、尚紀は咄嗟に感想を持つ。そして唇がツヤツヤしていて、柔らかそう……。視線……だけではなく、全体的に押しが強いけれど。 「あなたは目が最高にいいわね。淀みもなくて綺麗ね。それ個性よ。大事になさい」  そうは言われても、尚紀はいまいち意味がわからずキョトンとしてしまった。 「磨けば光る子だと思うわ。この子の努力次第だけどね。顔もスタイルも問題ないし、背は少し低いけど……、うちは長身の子を求められることは少ないから問題はないわ。そして、個性がある」  野上の言葉は、背後にいた夏木に向けられていた。彼女の視線に誘われて、尚紀も振り返るように夏木をみる。 「だろ?」  彼は、余裕の眼差しを向けている。 「そうね。わかったわ。  レッスンを受けてもらって、ものになるかを見極めさせてもらうわ。まあ、夏木氏の見立てならば問題ない気がししているけど、可能性だけだから」  そう野上は夏木に向かって言い放った。夏木も満足そうに頷いて、それで結構だと返事した。

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