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5章(4)
どうも品定めをされていたらしいというのをようやく尚紀は察する。
「明日から一ヶ月、みっちりレッスンを受けてもらうわ。メンズモデルっていっても、結構大変なのよ。ポージング、ウォーキング、ヘアメイク、カメラワークや、一般教養や栄養学、身のこなしやマナーも必要ね」
野上から繰り出される言葉に、尚紀は圧倒される。そんなに必要であるのかと。
「あなた高卒?」
「……高校は辞めました」
そう、とあっさりと頷く。
「私たちのクライアントは企業が多いのよ。社会人としての一般常識も身につけてほしいわ、プロとしてね」
野上から次々と繰り出されるリクエストに尚紀が目を丸くする。これまで自分が求められてきたものとは全く違う。
「どう、できそう?」
野上が尚紀を見据えてくる。
尚紀は思わず、夏木を見る。すると夏木は、人が悪そうな表情を見せて、こう言った。
「自分の食い扶持を稼ぐってことは、経済的に自立するってことだ。尚紀、したくはないか?」
自立。
その言葉に尚紀は内心で驚く。今更ながら気がついたのだ。そうか、自立ができるのかと。
高校生の時に無理矢理夏木に番にされ、以来ずっとマンションに引きこもっていた自分に、そんな道があるとは思わなかった。
どうにかしないといけないとはなんとなく思っていたけど、自分に切り開ける未来なんてあるのか分からないと思っていたのも事実。あの三人の部屋の居心地がよくて、ずっと思考を停止していた部分もあった。
夏木との番関係を解消し、自由の身になることは難しいが、それでも仕事を得て自立し、稼いだ金で生活するというのは、尚紀が将来的に目指すべき道であり、真っ当な大人であれば当然だ。まだ未成年だが。
奈落の底に沈められて数年、真っ当な身分に戻ることを諦めていた。だけど、もし、モデルとして自分で稼げるようになったら、少しだけ人生の軌道修正ができるのかもしれない。
いや、夏木がこんなことを言い出すには何か狙いがあるのかもしれないが……、いや、おそらく……絶対にあるのだろうが、自分でお金を稼ぐことができるというのは、この上なく魅力的だ。
尚紀は野上を見る。
「やります」
尚紀のその端的な言葉に、彼女は満足げに頷いた。
「一ヶ月後にあなたに仕事を用意するわ。無事に乗り切れることを祈ってる」
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