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5章(5)

「え、モデル?」  再び夏木に事務所から柊一のマンションに送られた尚紀は、出迎えてくれた柊一と達也に今日の出来事を伝えた。    あのあと、事務所で契約書を書かされ、尚紀は解放されたのだった。  明日は朝十時に渋谷のレッスンスタジオに来いとのお達し。もちろん遅刻は厳禁と言われた。 「うん。いきなり連れてかれた」  どうも夏木とは長い付き合いがありそうな柊一は連れて行かれた事務所に心当たりがある様子。 「野上女史は、真也と結構長い付き合いの芸能事務所の社長だよ。あいつ、ヤクザのくせに芸能関係に顔が広いみたいで、いくつかの事務所と懇意にしてる。でも、まさかナオキを連れて行くとはねぇ。確かにナオキはイケメンだけどさ」  柊一はそう言って頷いた。 「え、ナオキ、モデルやるの? すげーすげー! ファッションショーとか出ちゃうのかな」  達也はそうやって喜ぶ。しかし、尚紀の目下の心配は家のことだ。達也にすべて任せて大丈夫だろうか。明日から一ヶ月はみっちりレッスンだと言われている。そう尚紀が懸念すると、達也は素直に「だいじょうぶ〜! 留守番するからがんばってきて!」と手放しで喜んだ。  達也は身内からモデルが出るのが喜ばしい様子。 「よかったと僕も思うよ。ナオキは少し外に出るべきだよ。いろいろな人と交流して、刺激をもらって成長できると思う。  このモデルの仕事を続けることができてもできなくても、それはきっとナオキにとって大きな経験になると思う。ここでずっと家事をしているのは、ナオキにとって楽しいことかもしれないけど、それだけでは得られないものが外の世界にはある。  真也はよくぞナオキを連れ出してくれたなって、僕はちょっと感動しているよ」 「シュウさん……」  柊一が自分のことを本気で心配してくれているのはわかる。 「あいつね、野上女史もそうなんだけど、ちょっとショービジネスには顔が広いんだ。  ナオキの希望と頑張りによると思うけど、いろいろと利用したらいいと思う。番なんだから、奴のツテは最大限使いなさいな。それは野上女史もわかっていると思うけど」 「ナオキいいなあ〜。おれはナオキのようにイケメンでもないからモデルなんてできないけど」  これまで二人でこの家のあれこれを担ってきた達也だったが、尚紀に外に出るチャンスが巡ってきたことで、彼も発作的に外への関心が高まったらしい。  それを柊一が受け止める。 「ふふふ。タツヤも可愛い顔をしてるよ。でも、タツヤは別に才能があると僕は思うな」  すると達也が何、何! と食いつく。 「タツヤはデザインセンスがあると思うんだ。ほら、誕生日に僕たちにメッセージカードとか作ってくれるじゃん。あれは素敵だと思う。イラストも凝っているし、デザインを勉強をすれば、ちょっとした仕事になるかもね」  柊一の言葉に達也も目を丸くする。 「まじで。やってみたい。おれもちゃんとお金を稼ぎたい!」  達也の言葉に、柊一は少し困ったような仕草を見せつつ考える。 「そうだね。ちょっと僕からそういう伝手ががないか聞いてみるよ」 「やったー! シュウさん優しい」  達也は柊一に抱きついたのだった。

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