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5章(6)
翌日から始まったレッスンは、尚紀にとって新鮮で驚きで、また初めてのことばかりで苦戦することも多かった。
尚紀が放り込まれたのは、モデルデビューが確約された各事務所の期待の新人が爆速でデビューするために一ヶ月という短期間で習得させる、特別プログラムだった。
尚紀の他に、大手モデルエージェンシーの期待の新人が五人いた。
朝八時からお昼過ぎまでは、技術を習得するためにウォーキングやポージング、スタジオ撮影、ポートレート撮影など、実践的な技術を叩き込まれる。
午後は、身体づくりのダイエットやボディデザイン、パーソナルトレーニング、ヘアメイクやメイクといった基礎部分、さらに自身を磨くためにボイトレや表現力の実習、メンタルカウンセリングみたいなものまである。
通常であれば半年から一年かけて身につける技術や知識を、一ヶ月で詰め込まれるハードなカリキュラム。しかし、それをやれと言われた以上、尚紀だけでなく、参加しているメンバー全員がやるしかない。
最初のうちは戸惑うことも多く、ウォーキングやポージングなども苦戦したが、コツを掴むと、みるみるうちに尚紀は成長した。
中学三年生あたりから、何をしても……勉強も集中力が続かず、根気強く取り組むことができなかった。目標を失ったというモチベーションの喪失や、オメガ特有の身体の変化だったりするのだろうが、頭の中に靄がかかったようで、集中して考えようとしても何かに阻まれてしまうことが多かった。始めるのにも時間がかかったし、続けるのも難しく、結局自習さえ苦痛だったのだ。
しかし、ここで行われるボイストレーニングや表現力実習などは、これまでの勉強では求められていたことが異なり、尚紀には合っていたようだ。カウンセリングなどで自分の深層を見つめ直すことで、「自分を表現する」ということがどういうことなのか、徐々に理解ができてきた。
すると、自分をコントロールするということが尚紀には面白く、楽しくさえなってきた。
与えられた課題から求められているものを察し、自分のなかの何をおさえて、どこを表現してカメラの前に立つべきか。表情や仕草一つでそれが見透かされてしまう。
それがわかるからこそ、自覚的に己をコントロールできるようになってきて、尚紀は楽しくなってきたのだ。
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