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6章(4)

「ほら」  夏木が尚紀に手渡したもの。  それは銀行口座のキャッシュカードだった。これからは生活費と小遣いを口座に入れるから、きっちり管理をせよということらしい。  聞けば柊一とも同様の方法で管理をしていて、これまで年少二人の生活費は夏木が出していたと聞いて尚紀は驚いた。  てっきり柊一の収入に頼っていたと思っていたのだ。 「お前の稼ぎ次第で小遣いは上げてやる。しっかり稼げ」  そう言って、夏木は身を翻した。 「ちょっと待って」  尚紀は背中越しに夏木を呼び止める。  今、このタイミングでしか聞けないことを、自分は聞こうとしていると、尚紀は思った。 「なんだ」  夏木が振り返る。尚紀は夏木を見上げて、少し怯んだ気持ちを奮い立たせる。 「前から聞いてみたいと思ってたんだ。なんで、僕を番にした?」  夏木が振り返って意外そうな表情を見せた。 「どうして、今そんなことを聞く」  その質問に尚紀は少し困った。なんて答えればよいだろう。尚紀としてはようやくこの問いかけを口にできた。これまで、ことあるごとに疑問に思ってきたことだったが、この疑問をあえて聞いてみて、どうにもならない理由だったり、どうしようもない理由だったら立ち直ることができない気がして、聞けなかった。  しかし、夏木から見ると尚紀を番にして三年半も経つ。今更、と思うことだろう。  今、ようやくここまでやってきて、どんな答えでも受け止めるだけの胆力ができたから、夏木に問うことができた。 「今だから聞きたいんだ」  そういうと、夏木が頷いた。 「お前は初めて会った時に、金になると思った。あと、あんなところで発情している子供なんて、どこにも居場所がない人間だとも」  たしかに、尚紀が発情期を起こしたのは平日の昼間、繁華街の路地裏だった。誰かに気づかれて襲われても文句はいえない場所。そんなところで初めての発情期なんて、普通だったら起こさないだろう。  以前、モデルのレッスンプログラムに参加していた時、オメガのモデルと話していて初めて知ったのだが、オメガと判明すると学校でカウンセリングが行われ、初めての発情期に向けての心得なども教わるという。知らなかった尚紀は、その課程をすっかり無視していたことになる。初めての発情期がどのようなものかも分からなかったし、当然自覚もなかった。  あんなところで発情している子供は、どこにも居場所がない人間であるという夏木の判断はその通りだった。 「あんなところで無防備に発情していたら、俺より悪い人間に攫われるだろ」  夏木より悪い人間……彼によって奈落に落とされた尚紀としては、思うところもあるのだが、それでも下を見ればキリがないかもしれない。

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