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6章(5)
夏木は、尚紀を番とする時は問答無用だったが、その後はきちんと住む場所を提供し、生活費を出し、普段は放置していたが、発情期には番としての責務も果たしていた。
彼が俺より悪い人間、というのは発情期の無垢なオメガをもっと違う形でいいように使う、尚紀には想像もつかない酷いケースが実際にはあるのかもしれない。……まさに、あの時夏木に番にされたのは不幸中の幸いだと思うような……。
「当然、お前の時も達也の時も、抱いて解放してやることを考えた。でも、助けてやって恨まれるもの面倒だし。これも縁だ、世の中の厳しさを教えるために、お前らを番にすることにした」
お前はいずれは金になると思ったし、タツヤは可愛かったしな、と夏木は言った。
「金になるって、ずいぶん簡単に……。そんな理由で」
しかし、尚紀はそうはいかない。あまりに簡単な理由で、番にされたものだと思った。
すると夏木はふんと鼻で笑った。
「それ以上に何が必要だ」
確かにアルファはこの番契約に縛られることはない。番を捨てることはできるし、複数のオメガを番にすることもできる。しかし、オメガは違う。
「オメガにとっては、一生を縛られる身体と本能の契約なのに……」
尚紀がそう呟くが、夏木はそんな尚紀の嘆きさえ鼻で笑った。
「そんなの、わからないだろう。お前か俺、どちらかが先に死んだら、この契約は終わりだ」
番った相手……、たとえばアルファが先立った場合、残されたオメガとの間に交わされた番契約はおおよそ解消されると言われている。項の噛み跡は消えて、契約前に戻ると。そうはならないレアケースもあるというが、一般的にはそのようになるらしい。
いや、一般論ではそうだろうが、普通は健康で身体も強靭、有能とされるアルファが、若くして生命を絶たれるようなケースはあまりないだろうし、またそれを期待するほど、尚紀は人でなしでもない。
尚紀はとっさにそう思ったのだが、夏木は違うようで……。
「俺はこういう仕事をしているからな。いつ死んでもおかしくはないぞ」
鼻で笑った。その目は冗談を言っているようには思えない。確かに、えげつないやり方で、方々に恨みを買っている、と以前柊一からその仕事ぶりを聞いたことがあったし。
この男は……と尚紀は思う。嫌な男だ。番にそれを願わせるのか。思わず唇を噛んだ。
そんな尚紀の本音をわかっているのか。夏木は人の悪い笑みを浮かべる。
「お前も俺から解放されたかったら、方法がないわけじゃないってわけだ」
「悪趣味だ」
尚紀は言い捨てる。
「俺は刹那的に生きているからな。じゃないと、オメガを三人なんて面倒見きれないしな」
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