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6章(7)

 達也は思ったことをそのまま口にする素直なところが可愛い半面、繊細な柊一の神経を逆なですることもしばしばあって、時に柊一がストレスを溜めていることを尚紀は薄々察していた。  一緒に住んでいればフォローのしようもあるのだが、自分が抜けてしまってはそれも叶わない。  尚紀は、そのちょっとした二人の性格の違いがもたらす齟齬が心配だった。  翌日、午前に仕事が終わった尚紀は、達也と待ち合わせをして、マンションに向かう。最寄り駅からマンションに向かう途中にあるいつものスーパーで、夕食の材料を買い込む。  まだ、それぞれが仕事を始める前、二人で家事を担っていた頃を思い出す。週に何度かこのスーパーで食材を買い込んでいた。 「やっぱりナオキと一緒に買い物って、しっくりくるなぁ」  達也が買い物かごを持って楽しそうに笑う。昔に戻ってきたみたいで楽しいと、と。  確かにあの頃は、日常の中でも小さな楽しみを見出しながら暮らしていた。戻りたいとは思わないけど、あの頃の楽しい思い出はある。 「タツヤ、帰りがけにアイスも買って帰ろうか?」  そう提案すると、達也もいいね! と即答で乗り気。  こうやって暑い夏の昼下がりに三人分のアイスを買って帰った懐かしい思い出も蘇った。 「ただいま!」  尚紀がそう言って、マンションの扉を開ける。すると、柊一がいつものようにおかえり〜と出迎えてくれた。 「シュウさん、ただいまー! アイス買ってきたよ」  尚紀がそう言うと、柊一はやったー! コーヒーを淹れよう、といつものように言ってくれる。そして、尚紀の背後にいる達也の姿を認めて、ちょっと困ったようは表情。少しだけ気まずい雰囲気だ。  尚紀は達也をせっついた。達也は「ただいま」と小さく挨拶した。  すると、柊一は優しい笑みを浮かべた。 「達也もおかえり」  柊一は、二人を招き入れた。    達也にカレーの下拵えをお願いしつつ、尚紀はがらんとしてしまった自室に、柊一を招き寄せる。 「忙しいのに巻き込んでごめんね」  柊一の謝罪に、尚紀は首を横に振った。 「ううん。タツヤがこちらに来るって言ってきたのは驚いたけど、巻き込まれたなんて思ってないよ、大丈夫」  でも、事情はタツヤから聞いた、と尚紀。  柊一が苦笑いを浮かべた。   「タツヤがイラつくのも分かるんだ。これまでナオキにずいぶん頼っちゃってた部分だからね。僕もこれからは頑張るよ」  そんな前向きな反応を聞いて尚紀も安堵する。 「僕の時はこの部屋の家事の一切を請け負うことが仕事で、それに納得していたのだけど、やっぱりタツヤも仕事を始めると負担が大きいんだと思うんだ」 「わかってるよ」 「ゴミ出しからだけでも、手伝ってあげて」 「うん、少しずつ達也に教えてもらいながら、できるところからやっていきたいな」  ただ、と柊一は言う。 「達也はああいう天真爛漫な性格だし、ずいぶん年上の僕と二人の生活は息が詰まるかなって心配だ。年が近い尚紀がいれば馬も合うだろうし……。尚紀のところにときどき行かせてあげていいかな?」  柊一の申し出に、尚紀は頷いた。時に、お互いで距離を取り合うことも大事だと思う。 「ずっと一緒だと息が詰まってしまうものね。達也だけじゃなくて、シュウさんも気軽に遊びにきてよ。もちろん僕も頻繁に帰るし」  尚紀が柊一の手を取る。柊一も笑みを浮かべた。 「尚紀には気遣いばかりさせてごめんね。でも、尚紀がいてくれて本当に助かってるよ。  このことはちゃんと僕から真也に言っておくね」  尚紀は首を垂れて、お願いしますと言った。尚紀自身は夏木と可能な限り接触を持ちたくない。 「もとはといえばの元凶はあいつだしね」  柊一は苦笑する。  ただ、もうひとつ、僕に心配なことがあるんだけど……、と柊一。  尚紀は首を傾げた。

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