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6章(8)
その夕食の夏野菜カレーは豪華絢爛。
茄子やピーマン、玉ねぎ、パプリカといったごろごろの野菜に豚ひき肉のハンバーグが添えられた「タツヤスペシャル」だった。
尚紀が手伝って、それに夏野菜と豆腐のサラダ、わかめと卵のスープも添えられる。ヘルシーでボリュームたっぷりの夕食だ。
そしてそのメニューは、達也のカレーが大好きな柊一への、達也なりの仲直りの気持ちのように思えた。
「わーお。いつもご飯を作ってくれてありがとう! 今日も美味しそうだよ」
柊一は、年少二人が食事を作ると、いつも心から驚いて喜んで労ってくれて、必ず完食する。
好き嫌いはもちろん、メニューや味付けに対しての苦情は聞いたことはない。どんな失敗作も受け入れてくれる。
柊一は、自分ができることとできないことを明確に分かっていて、できないことをしてくれる人に最大の敬意を払う人だった。
こういう人と一緒に住んでいたから、日々の家事も苦ではなかったのだと尚紀は思う。でも、それは尚紀と柊一の間だけで成立する信頼関係で、達也を巻き込むのは違うのだろう。
だけど。それでも今日のメニューを見れば、達也の怒りもそれなりに治っていると思う。
三人でいつものようにわいわいしながらカレーを平らげた。
三人を取り巻く空気はいつものものに戻りつつあった。
「タツヤはさ、夜どこに行ってるの?」
達也のカレーを平らげて、尚紀がそう聞いた。早速、夕食の後の片付けは柊一の役割になったらしい。柊一が鼻歌まじりに流しに向かっているその背後で、尚紀は達也に聞いてみた。
それは柊一から新たにもたらされた、新たな心配だった。
「最近、タツヤが深夜に出かけてるみたいでさ。僕が寝ぼけているわけではないと思うんだけど、この間、お手洗いに起きたらいなかったの。どこで何してるんだろう。少し心配で」
尚紀が素直に提案してみる。
「シュウさんが年長として聞いてみれば?」
「んー。だって、僕が聞いたらタツヤが怒るかも」
柊一がどことなく萎縮している様子と感じたが、尚紀も素直に頷いた。
「いきなりシュウさんが聞いたら、生活指導の先生に問い詰められる感じかもね。じゃあ、僕から聞いてみるよ」
尚紀の直球の問いかけに、タツヤはわずかに目を泳がせた。柊一の心配は、寝ぼけていたわけではなさそうだ。大人として本当によく見ているなあと、尚紀は思った。
「どこも」
「どこも、っていう反応じゃなかったよ」
尚紀が追い詰める。
「ねえ、尚紀、言ったのシュウさん?」
尚紀はうなずく。
「シュウさんしかいないじゃん。シュウさん、すごく心配してるよ。で、どこに行ってるの?」
口を噤んでしまった。
「タツヤ」
「……駅前にちょっとした飲み屋さんが入ってるビルあるでしょ」
「うん」
「あそこのカフェ」
「カフェ? そんな夜遅くに?」
タツヤは訂正する。
「んー。カフェなんだけど、バーっていうか」
「バー? カフェじゃなく」
「そうかも……」
「なるほど、お酒も出すお店なんだ」
「ウン」
それはバーだな、と尚紀は思う。
「タツヤ、まだ二十歳になってないよね」
尚紀の言葉に、片付けを終えた柊一も加わる。
「なんで入れるの?」
二人の追求に達也は言い淀む。
「それは……」
「昔は身分証がないとお酒も買えなかったよね」
尚紀の言葉に、柊一は少し考えてから、あっさりと聞く。
「もしかして、年齢偽って入ってる?」
いやな沈黙……。
「……ウン」
「タツヤ!」
尚紀と柊一は驚く。
「だめだよー!」
尚紀が思わず叫んだ。尚紀だけでなく柊一も。
「お酒は二十歳になってから!」
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