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6章(9)
達也は二人に言われてしゅんとする。
「あのね。タツヤも遊びたい年頃なのは分かるの。でも、もうすぐ二十歳でしょ。少しだけ我慢しなさい」
柊一がビシッと言う。
「でも、入れちゃうんだもん」
年齢確認がザルで入れてしまうのかもしれないが……。
柊一が達也を言い含める。
「でも、じゃないの。
あのね、僕たちの番は堅気じゃないの。タツヤがそういう行動をした結果、もし普通の人たちに迷惑をかけたらどうなると思う?」
達也は首をかしげる。その発想はなかったらしい。
「夏木だけじゃなくて、みんなに迷惑がかかるんだよ。ルール違反は絶対にダメ!」
柊一の剣幕は相当なものだった。
「だってー、夏木の仕事じゃん。俺らは関係ないじゃん」
達也は納得し難いように反論するが、柊一は揺るがない。
「でも、タツヤはもうヤクザの番なんだよ。世間はそう見るの。腹を括って行動には気をつけないとダメなんだよ。普通の人以上に気を遣わないといけないの。でないと、僕らの生活だって守れなくなるんだよ。わかった?」
柊一の言葉は、尚紀も納得するものだった。
結局この件については、尚紀が出る幕はなく、柊一がびしっと、年長者としての威厳をみせて解決をみた。
達也はその後しばらくして、二十歳の誕生日を迎えてから、そのバーに夜に通うようになった。
夜遊びを覚えてしまったことに柊一は一時心配を募らせていたが、尚紀は二十歳になった以上何も言えないと宥めた。
「もう大人だもん。責任をもって行動しているから大丈夫」
尚紀もそう言うしかない。
ただ、節度を持った行動と、夏木の番である以上、何かあれば番が、ヤクザが出てくる事態になり大騒ぎになる、ということだけは肝に銘じてと達也に重々言い含めた。
その言葉は、達也にはきちんと響いたらしく、その後は、時折夜に遊びに出ていき、適度に楽しく遊んできちんと帰ってくる生活をするようになったらしい。
その後も、柊一と達也は、どうしても馬が合わない部分があって、年に一回ほどの頻度で思いもよらない理由で盛大に喧嘩をして、尚紀を驚かせた。
尚紀のとりなしで、大概のことであれば和解に至るので、まだいいのだが。
だからか、尚紀が一人暮らしをするようになって、部屋を尋ねて来る頻度が高いのは達也だった。
達也は尚紀の一人暮らしを羨ましがっていた。
おそらく一見華やかな仕事で収入を得るようになった尚紀をいいなーと言いながら、一番は一人暮らしの気ままさを羨ましいと思っているのかなと感じていた。
達也は大家族の生まれだと聞いているから、一人の暮らしに憧れているに違いない。一人の生活は自由である一方、少し寂しいものであるということを、達也は知らないのかもしれない。
達也は尚紀の部屋で不満とストレスを発散させ、少しだけ一人暮らしの自由さを満喫して帰っていく。尚紀はそれでいいんじゃないかなと思っていた。それが柊一との二人の暮らしにもプラスに影響すればいい。
だから尚紀は達也の来訪を歓迎した。
尚紀は、都内で一人暮らしをするようになっても、柊一と達也のことを忘れたりはしなかった。むしろ積極的にコミュニケーションを取るようにしていた。
今日はカレー曜日だから、美味しいお菓子をもらったから、柊一が疲れていそうだったから、達也と一緒にご飯を作りたいから……尚紀はことあるごとに理由を作っては、柊一の部屋に頻繁に帰る生活を送った。
そんな生活が、一年二年と変わりなく続く。
一方、仕事の幅は広がり、「ナオキ」というモデルはネットだけでなく、雑誌やテレビでも見かけるほどになった。華々しいショービジネスの世界でモデル「ナオキ」は活躍し、順調にキャリアを積み重ねている。
しかし、尚紀自身は華々しい世界とは無縁に近く、基本的な生活は慎ましく変化はなかった。
柊一と達也の二人は、尚紀にとって唯一全てを許せる、かけがえのない大切な存在だ。
そんな尚紀の生活を、庄司はもちろん夏木も、何かを言うことはなかった。
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