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7章(2)

 柊一の発案で始まった、三人の誕生日を祝う恒例行事は、ずっと三人の中では大切にされている。  喧嘩をしていても、この恒例行事をきっかけにして仲直りをしたこともある。三人の間ではかけがえのないものだ。  初めてサプライズで柊一の誕生日を祝った時は、尚紀と達也はまだ未成年だった。居酒屋風の演出で驚かせたかったのに、アルコールを買うことができず、コーラでお祝いした。  あれから七年が経って、早生まれの尚紀は二十四歳となり、一つ年下の達也も今日、二十四歳の誕生日を迎えた。 「なんか、三人で祝うのは久しぶりな気がするね」  長らく大切にしてきた恒例行事で、いくつかの暗黙のルールができた。そのうちの一つが、主役が発情期で不在でなければ、開催されるというもの。  前回開かれた尚紀の誕生日は、あいにく達也の発情期と重なってしまい、尚紀は柊一に誕生日を祝われたのだった。  だから三人で、というのは久しぶり。  尚紀が冷蔵庫から冷えたワインボトルを取り出す。 「僕たちも、こういうものが飲める年齢になったんだもんね」  なんかしみじみしちゃうと呟くと、達也が大人になったねえ、と反応する。 「オレ、シャンパンなんて初めてだよ」  ワクワクしている様子。 「飲み過ぎに注意だよ。タツヤ、いつもついつい飲みすぎちゃって、大変なんだもん〜」  尚紀がそう嗜めると、達也もごめんごめんと苦笑まじりに謝った。  二十歳になり、堂々とアルコールを嗜むようになった達也は、あまり酒に強くないにも関わらず酒好きになっていた。 「それにしても、尚紀がシャンパンを買ってくれるようになったなんてね。本当に出世したね」  柊一もしみじみ呟く。手にしているのは、細長いシャンパングラス。尚紀が持参したそのボトルはさほどに高額ではないものの、お酒にかけるには躊躇うくらいの値段はする。ちょっと奮発した。  今日は達也の誕生日だからと、酒好きの達也が喜ぶと思ってのセレクトだ。三人で開けて飲んだら美味しいだろうと思ってワクワクしながら買った。 「開けるよ〜」  主役の達也が嬉しげに、シャンパンの蓋をしたから持ち上げる。  ぽん! と音がして、コルクが勢いよく天井に向かって飛んだ。 「もう! なんであえてそんな開け方するの〜!」  柊一はおかんむりだが、尚紀と達也は楽しくて楽しくて、まあまあと柊一を宥める。照明に当たったら大変でしょ! と怒る気持ちも分からなくはないけど、ノリと勢いだ。楽しいのだから仕方がない。尚紀と達也は二人で目を合わせて笑った。  三人の関係はいつでも変わらなかった。  年少二人が何かをやらかして、年長者の柊一に心配をかけてしまう。それでも、柊一はそんな尚紀と達也のことを笑って許してくれたし、ふたりもそんな柊一に甘えている自覚もあるから、いつも感謝していた。  尚紀などは、ここ数年は夏木と繋がりをもちたくなくて、仕事以外のことは可能な限り柊一にお願いして、取り持ってもらったりしている。  最初の頃に発情期で夏木を拒絶したことが印象的だったのか、柊一も諦め苦笑気味に、尚紀の願いを聞いて、夏木に連絡を取ってくれるのだった。

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