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7章(4)

 尚紀はそのメンバーを思い出してから、不意に野上の顔が脳裏をちらついた。 「そういえば昨日、野上社長から呼び出されて……」  そう尚紀が切り出すと、柊一はにっこり笑った。 「元気そうだった?」  正確に確認したわけではないのだが、柊一は野上と面識があるらしい。以前野上のモデル事務所に尚紀を連れて行った夏木の行為を評価していたし、二人は華やかな業界に顔が利くと言っていた記憶もある。  そのため、接点はまるでわからないが、尚紀の中では、この二人は面識があるのだろうと思っている。 「相変わらず元気そうだよー。社長本当に変わらない」 「いつまで経っても若いよね」  そう柊一は笑った。 「そういえば、野上社長から夏木の本業がゴタついてるって。だから気をつけてって言われたけど、シュウさんたちには連絡はなかった?」  柊一は首を横に振る。 「ううん。こっちにはなにも。慎ましく生きてるだけだもん。真也だってあまり顔を見せないし。むしろ、ナオキが派手な動きをしているから心配なんじゃない?」 「僕だって、仕事以外は静かに暮らしてるよ」  尚紀の嘆きに、達也が口を挟む。 「ナオキは仕事以外は多分ずっとここにいるよね」  楽しそうに言う。それはあながち間違っていない指摘だ。 「モデルさんってもっと華やかなイメージあったけど、ナオキはそういうの好きじゃなさそう」  モデル仲間と華やかな付き合いをするよりも、尚紀は横浜に帰ってきて、達也と一緒に食事を作り、柊一も囲んで三人でご飯をする方が好きだった。  あとは、どうも尚紀の背後には夏木がいるということを関係者の中には悟っているものもいるらしく、そのような場に尚紀を安易に誘ってこないということもあった。 「一人でどこかに行くのも興味ないしね。お金もかかるし。ここでご飯作ってみんなで食べる方がよっぽど楽しいよ」  そもそも自分の仕事は増えてはいるが、振り込まれている生活費にあまり変化はない。自分の稼ぎとはどこに行ったのかと思うが、社長の野上と庄司の言い方からすると、夏木の懐に入っているものと思われる。   「ナオキが稼いでくれるってほくほくしているんじゃないの。あいつマジで守銭奴だよ」  達也がそう自分の番を言い捨てる。思わず柊一を見てしまうが、彼はそんな達也の悪態に慣れているのか、困ったような表情を浮かべていた。 「土地転がすだけじゃ厳しくなってるんだろうね。ヤクザも新たなビジネスは必要なんだろな」  達也が頬杖をつく。自分は発情期のときに夏木と会話らしいものはあまりしないし、本業の事情もよく知らない。しかし、達也の話ぶりからみると、彼はそれなりのコミュニケーションをとっているのだろう。  夏木の事情に一番詳しいのは達也なのかもしれないと尚紀は思った。  しかし、それゆえに達也は辛口だ。  その間、柊一は二人の会話には入ってくることはせず、黙々とシャンパンと餃子を交互に楽しんでいる。 「ねえ、尚紀。この餃子、本当に美味しいね」  柊一に褒められると、尚紀は嬉しくなる。 「ホント? 嬉しいな」  素直に嬉しい。ちょっとした工夫だけど、きちんと柊一は気づいてくれるのだ。 「これね、豚バラと玉ねぎを入れてるの」  あとコクを出すために味噌ね、と尚紀は付け足す。  柊一はへえ? と驚いたような表情を見せる。 「たしかに、醤油がなくてもこのままでも十分美味しいよね」  でしょーと尚紀は得意げだ。

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