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7章(7)

「ねえ、ナオキ」  柊一と対照的に、目が爛々としていたのが達也だ。尚紀に向ける視線は、なぜか明るくキラキラとしている。  達也はとんでもないことを言い出した。 「もしだよ。もし、夏木が死んだらさ……」  夏木が死んだら……可能性がないわけではい。 「タツヤ」  尚紀が嗜めるが、達也はどうしても話したい様子。 「オレたちあいつの番契約から解放されるのかな?」  その言葉に、尚紀自身は最初何を言われたのか理解できなくて、きょとんとした。そして、そのあとにようやく言葉の意味を理解して、驚きの表情を浮かべてしまった。  おもわず声を顰める。このタイミングで切り出す話ではない。  でも、考えてしまった。 「……夏木が」  死んだら。  尚紀は以前、夏木に言われた言葉が不意に蘇ってきた。  都内のマンションに引っ越しを強いられた日。部屋で初めて聞いた、尚紀を番にした意味があまりに安易で抗議の声を上げた。すると夏木は事もなげにこういったのだ。 「お前か俺、どちらかが先に死んだらこの契約は終わりだ。  俺はこんな仕事をしているからな。いつ死んでもおかしくない」  尚紀は呟いた。 「死んだら……この契約は終わり……」 「やったぁー! まじで!」  拳を握るほどに歓喜に満ちた達也の声が上がった。 「おい、タツヤ!」  やっぱりそれは不謹慎だ、と尚紀が宥めるも、タツヤの興奮はおさまらない。ガッツポーズで尚紀に迫る。 「だって、そうでしょ。夏木が死んだらオレたちは解放されるんだよ! ナオキだって嬉しいでしょ!」  尚紀の手を取った達也は、喜びを爆発させた。狭いダイニングで踊り出しそうなほどの勢いだ。  達也は夏木の番にされても不満はなさそうだったのに、それでもいろいろと溜まるものがあり、不満を募らせていたのかもしれない。だから、解放されるかもしれないという可能性に触れてしまって、達也は驚くほどに喜びを爆発させているのだろう。 「もし、解放されたらどうする? オレはもうちょっと遊びたいなあ」  尚紀は? と言われ、困惑する。 「家に帰りたいとか。実家帰ってないでしょ。夏木がだめっていうから」  それは違う。自分にはもう帰る家がないだけだけどな、と尚紀は自虐的に思う。  扉の向こうには、夏木の負傷を心配になるくらい不安を募らせている柊一がいる。この状況を彼には見せられない。  達也には少し空気を読んでほしい。 「タツヤ、少し落ち着いて」  尚紀は柊一の部屋を気にしつつ嗜めるが、スイッチが入った達也はこれが落ち着いていられる? と興奮気味。 「夏木〜! 頼む、逝ってくれ!」  アルコールが入っていることもあって、達也のテンションは悪ノリに近く、尚紀の手には負えない。  はしゃぐ達也を見ていられず、尚紀も自室に引き上げようかと思ったが、やっぱり心配なのは柊一のことだった。

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