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7章(8)

 手早く食器類を片付け、尚紀は柊一の部屋に向かった。扉ごしに柊一に呼びかけて、大丈夫? と気遣うと、彼は尚紀を中に入れてくれた。  初めて入る柊一の部屋。  薄暗い部屋のなかで、仕事用デスクの上に鎮座するPCのモニターが光を放つ。ちらりと視線を向けると、ニュースサイト。  きっと夏木のことがニュースになっていないか調べたのだろう。  彼の香りがすごい。自覚はないが、自分もそうなのだろうか。いや、多分違うと思う。 「散らかっててごめんね」  柊一が謝るが、尚紀は首を横に振った。 「ううん。それより、シュウさん、大丈夫?」  そう尚紀が問いかけると、柊一は少し戸惑ったような表情を浮かべてから、大丈夫だと無理した様子で笑った。  尚紀は少し後悔する。今、この人に大丈夫かなんて聞いてはいけなかった。大丈夫であるはずがないのだ。 「夏木のことはニュースになってた?」  尚紀がニュースサイトに視線を流して問うと、柊一はなってなかったと言った。「刺された」というのだから、ニュースバリューはあるはず。時期にアップされるのだろうが、真偽を確認できない今は余計に不安を煽られる。  それにしても、と尚紀は思う。 「シュウさん……、部下の人はなんて? 夏木、大丈夫なの?」  柊一は何も言わずに項垂れた。 「まだよく分からないみたい……。わかったら連絡するって」    柊一は尚紀にベッドに腰掛けるように言う。自分はそのベッドの下の床に腰を下ろした。 「……なんか、市街地で、突撃されるように刺されたみたいなんだよね」  連絡をくれた夏木の部下の話によると、仕事で車を乗り継ぐために車外に出た、その一瞬の隙をついたタイミングで、背後から突き刺されたという。 「尚紀を心配していたんだから、自分だって警戒していたはずだよね。一瞬のことだったみたいで護衛も動けなかったって言ってた」  それを尚紀と達也に伝えなかったのは、刺激が強いと思ったからのようだが、柊一自身が一人で抱えていられないようだ。  尚紀は、意外なほどに冷静に受け止められている。目の前の柊一が動揺しているから、自分がしっかりしないとと思っているためだろうか。  柊一は振り返って尚紀を見上げる。 「明日、仕事?」  不安で揺らいで潤んでいる瞳に見つめられる。今にも涙が溢れそう。  尚紀は首を横に振る。 「ううん。オフにしてる」 「そう……。  じゃあしばらくここに一緒にいてくれない? なんか嫌なこと考えちゃうんだよね。別に話さなくていいから。一緒にいて?」

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