60 / 192
7章(9)
柊一は、ベッドに寄りかかりながら、膝を抱えた。
その仕草があまりに頼りなくて、尚紀はなんて声をかけていいかわからない。
「シュウさん……」
「もし、真也が死んだら、タツヤがいうように僕たちとの番契約はなくなるのかな……」
達也の歓喜は、当然ながら扉を隔てていたとしても柊一の耳にも届いていた。尚紀が思わずバツの悪い表情を浮かべると、柊一は笑みを浮かべた。
「ナオキは優しい子だね。
タツヤの気持ちはわかるよ。ナオキだってタツヤだって、無理矢理、真也に番にされたんだもの。それが解放されるかもってなったら、テンション上がっちゃうよね……」
「シュウさん……」
「でも、ちょっと僕にはしんどいかな……」
尚紀は柊一の隣に腰を下ろし、彼を抱きしめた。彼の香りがすごい。これは普通のことなのか、尚紀にはよくわからない。でも、今柊一を離すわけにはいかなかった。
「大丈夫。シュウさん、大丈夫だよ。夏木はきっと大丈夫だから。僕たちの番は、悪運が強いと思うし。きっと悪いこともいっぱいしてるから、神様だってあんなのを早く寄越されても困るよ。だから大丈夫」
大丈夫だと何度も言い聞かせ、背中をさすりながら慰める。
「夏木の部下から連絡がないのなら、きっとたいしたことないんだよ、だから泣かないで……」
柊一は泣いていた。
彼は、心細いのだろうと思う。そしてやっぱり夏木の本当の意味で番なのだ。自分たちとは違う。きっと気持ちが繋がった番だ。これまであえて聞いたことはなかった。だけど、彼はきっと望んで夏木に項を噛まれたのだと、尚紀は理解した。
尚紀と柊一は不安な一夜をそのように抱き合って、安心を伝え合って過ごした。
そして夜が明けて。朝が来て。
柊一のスマホが再び鳴った。
いつの間にか尚紀は寝入っていて、柊一のベッドに横になっていた。
そのスマホの着信音で尚紀は目を覚ました。
目を開けると、電話を受ける柊一の背中。
「そう。間違い無いんですね……」
沈んだ声に、尚紀の意識はすぐさま覚醒した。そうだ、夏木の安否だ。それを一晩待っていて、寝てしまったのだ。
身を起こす。そして彼の背中を見つめた。
「シュウさん……誰?」
尚紀の呼びかけに、通話を切った柊一は顔を歪めて、尚紀を振り返った。
それは、柊一も面識がある夏木の秘書という人物からの連絡とのこと。
伝えられたのは、夏木の訃報だった。
「真也……」
柊一は膝から崩れ落ち、へたり込んだ。
尚紀もその知らせを信じられなかった。まさかあの夏木が、こんなにもあっさり、あっけなく逝くなんて、考えたこともなかった。
尚紀、二十四歳の夏。奈落の底に突き落とされて七年が経ち、その人生は再び大きな岐路に立たされている気がした。
ともだちにシェアしよう!