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7章(11)

 その日の午後になり、警察がやって来ていろいろと事情を聞かれたが、尚紀はもちろん、達也や柊一もあまり話すことはなく事情聴取は終わった。また、こちらが聞いたことにもあまり答えてもらえなかった。  警察の担当者も、番が三人いることには大層驚いていた。  ただ、番ということで教えてもらえたのは、夏木の遺体はこれから司法解剖にかけられて、もどってくるのは数日後ということくらいだった。  それから数日間はバタバタした。とはいっても、故人の遺体の引き取りから葬儀という、逝去後のあれこれという手続きは、三人は完全に蚊帳の外だった。  夏木には東京に本宅があり、正妻がいる。法律上の配偶者である正妻にすべての権限があるためだ。本宅との交流はほとんどなかったため、こちらには一切なにも知らされずに物事が進んだ。  尚紀や達也、柊一は関与することが許されなかったと言える。「組織の中で上がっていくための政略結婚に近いものだ」と、かなり昔に柊一が尚紀に教えてくれたが、本当にそのような婚姻関係だったらしく、すべて組と本宅が取り仕切り、番の三人は、通夜も告別式も出席させてもらえなかったのだった。  唯一、告別式の前に故人に会わせてもらうチャンスがあった。焼香はさせてもらえたのだが、正妻が番の三人を見る目があまりに異様で、尚紀は何も言えなかった。  柊一は泣き崩れた。  その姿を見るだけで、尚紀は柊一にとって夏木がどのような存在だったのか、改めて思い知った。  唯一の救いは、夏木の死に顔が穏やかだったこと、と言えるかもしれない。  マンションに帰ってきた時の柊一の憔悴ぶりは痛々しいほどで、ほとんど一人で歩けない状態だった。  東京の本宅からタクシーで帰宅したが、一人で歩かせるにもしんどい様子で、車を降りてから部屋まで達也が支えていた。  顔は泣き顔で濡れ、終始ハンカチを当てたまま俯いていて、見ているだけで痛々しい。  それでも、自宅に戻ってきて自分の部屋に入る時にはずっと心配し見守っていた尚紀と達也に「ありがとう」と礼を言う気遣いを見せていた。 「とりあえず、ゆっくり休んで」  尚紀がそう言うと、彼は儚い笑みを浮かべた。 「うん……。ごめんね、年上なのに頼りにならなくて」  そんなことないよ、と尚紀が柊一を抱きしめた。 「僕たちももう大人だよ。シュウさんも僕たちを頼って」  そしてそれから、柊一は三日ほど部屋から出てこなかった。

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