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8章「僕は見守るしかできなかったのでしょうか」(1)

「シュウさんの様子はどう?」  仕事の合間に、尚紀はスマホで頻繁に達也に連絡を入れる。 「今日は朝ごはんを食べてくれたよ。仕事をしないとって言ってたけど、大丈夫かな」  夏木の四十九日を終えてから、柊一が体調を崩しがちになった。食欲が落ちているので夏バテかと思い、達也と尚紀は柊一の食欲を刺激するような料理を工夫した。もともと、達也や尚紀が作ったものを美味しいと完食する柊一が「ごめんね……」と言いながら食べたくないと言われると心配になる。  そして体力が限界を迎えたのか、秋を迎えると仕事が休みの土日に寝込むようになった。  尚紀が金曜日に帰ると、カレーが胃に刺激的なのか仕事が終わったまま寝てしまうことも。達也と尚紀は柊一をそっとしておいたが、金曜日のカレーの日は廃止することにした。  しかし、柊一の方は放っておくと、そのまま日曜日の朝まで部屋から出てこないこともあって、尚紀と達也の心配はますます募る。  それでも、日曜日になると共用スペースに少し顔を出し始めて尚紀や達也も安堵する。そこを捕まえて、少し食べられるものを食べて! と尚紀は消化に良さそうなものや果物を出すのだった。  尚紀は仕事の関係で、都内の部屋に帰らざるを得ないこともある。 「なんかシュウさんのご飯の心配をいつもしてる気がする」  その分、負担は達也にのしかかる。達也がすこし疲れた表情を見せているのも、尚紀は気になっていた。    柊一がそのような生活になったのは、四十九日の直後にやってきた発情期がきっかけだった。  かなり遅れた周期だったが、番を失い、かなりのストレスにも見舞われたので仕方がないのかもしれない。発情期自体は一週間続き、それは柊一にとってとても辛いものであったらしい。  一緒に住む達也にとっても、それはしんどいものであったようで……。 「シュウさんの部屋からすごく辛そうに夏木を呼ぶ声が聞こえてきて、胸が痛むんだよ。メンタルにくる……」  柊一が求める人はもうすでにこの世にいない。しかし、柊一は番に身体を縛られている。柊一も分かっているにもかかわらず、求めずにはいられないのだろう。   「それは辛いね……」  尚紀自身、あまり記憶にはないが夏木を拒絶したときに、番の香りをも求めて巣を作ろうとして部屋中を徘徊したことがある。  そんなことが脳裏をかすめた。  尚紀は夏木に対して愛情などまったくなかった。発情期を夏木を超えていたのも、生理現象として割り切っていた。  だけど、柊一のように今発情期が来たらどうなるのだろう。  求めてもいない男を、身体が求めて泣くのだろうか。それは怖い。    この発情期を境に、柊一の体調は不安定なものになっていった。

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