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8章(11)

 季節は、春から初夏、そして夏へ。確実に移ろっていた。  しかし、柊一の様子はあまり変わらず、夏木の一周忌が終わった。  柊一の様子は変わらず。そして項に跡が残ったまま、発情期が来ないという中途半端な状態の尚紀もそのままだった。  達也の誕生日と偶然重なった夏木の一周忌には、やはり番だったオメガ二人は本宅から呼ばれなかった。完全に夏木の配偶者と部下にとって、夏木にはかつてオメガの番が三人いたという事実を忘れているか、事実として消そうとしているのでは無いかと尚紀は感じた。  一周忌が済んでしばらくして、尚紀は柊一とともにひっそりと夏木を墓参した。  今年は猛暑と言われる夏が長かった。  それがようやく、秋めいた風に変わり、過ごしやすさを感じられるようになったある休日。  尚紀は柊一に久しぶりに外に出たいから付き合ってほしいと言われた。  もともとインドア派の柊一がそんなことを言うのは珍しい。  どんな心境の変化だろうと尚紀は思ったが、柊一はこんなに天気が良いから、少し気分がいいことをしたくなったのだと、部屋から秋晴れの青空を仰いだ。  先月に発情期が来て、柊一は恒例のようにしんどい思いをして乗り越えた。  尚紀としては心配で、可能であれば柊一を病院に連れて行きたいという気持ちに変わりはなかったが、過去何度かそれで衝突して関係性を悪化させていたので、今は見守るだけにしていた。  いくら辛そうでも、彼が異常性に気がついてくれないとどうにもならない。少しずつ……時には柊一が辛いを思いをするかもしれないけど、長期戦で構えようと考えた。  尚紀が姿勢を変えたことで、柊一との関係性は少し改善したのだった。  だから、久しぶりに柊一にそのように誘われて嬉しくないわけがない。二人で出かけることにした。  柊一はみなとみらいに行きたいという。久しぶりに外行きのぱりっとした装いの柊一を見て、尚紀も安堵する。外見だけで判断するのはよくないが、それでも彼が顔色良く、健康そうに過ごしていると安堵するのだ。  到着したらすでに昼時で、二人でダイナーでハンバーガーを頬張る。アメリカンスタイルの気分が上がるような原色がちりばめられたポップなインテリアが並ぶ店内で食べる、肉肉しいハンバーガーとポテトフライとコーラは最高で、ここしばらく少し食が細かった柊一も満足げな様子。美味しいね楽しいねと言い合いながら、二人で完食した。    これまでマンションに引きこもっていることが多かったが、こうやってチャンスを見つけて二人で外に出るのも悪くはない。柊一に体力をつけるためにも、これからは季節も良くなるし、頻繁に外に連れ出そうと尚紀は心に決めた。 「もうお腹いっぱいだよ」  やはり少し食が細くなっているのだろう。胃が重いという柊一と一緒に腹ごなしにてくてくと散歩をしつつ買い物を済ませて、最終的にやってきたのは、横浜港に面した山下公園だった。

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