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8章(14)

「そうだよね……。  ナオキは無理矢理、僕の番にされたんだものね。ごめんね。僕はずっと尚紀にそう言い続けないといけないのに。  でも、僕だって真也を三人で分け合うなんてしたくはなかったよ」  それは初めて聞く、柊一の本音だと感じ、尚紀は緊張した。 「まだ本宅の奥様は我慢できた。ベータだし、会わないし、なんていっても僕たちの間には番の絆がある。真也にも、出世のためだと言われたし……」  それは夏木と柊一の話だった。 「でも、いきなり何も言わずに子供二人を番にするって、何を考えているのって、本当に思った。それを全部僕に押し付けて……、勝手に逝って……。  せめて僕も一緒に連れて行けよ!」  本当にひどい男だ、と柊一は漏らした。 「シュウさん……」  尚紀は柊一になんて言葉をかけていいのかわからなかった。彼の悲しみは、絶望や不安や悲しみ、幸せといった様々な感情を内包して、怒りになっていた。  八年一緒に過ごして、初めて見る柊一の怒りの感情だった。    柊一の視線が尚紀に向かう。すこしヒヤリとするしせん。 「尚紀が真也を嫌うのを見るのも辛かったんだよ。番に夢中になられるよりはマシかもしれないけど、僕の番はそんなに罪深いことをしたのかって、まあ毎回思うよね……。そりゃ、尚紀から見たら、したんだだろうけどさ」    そこで尚紀も初めて気づいた。  好きな相手への不満を聞かされて幸せな人はいないだろう。自分はついつい、柊一に甘えてしまっていた。 「ごめん」 「運命を共にする番がしたことだ。僕はそれを飲み込まないといけない。  だから、ナオキもタツヤも受け入れた」  それが、柊一の本音なのだと尚紀は察した。自分たちへの親しみではなく、夏木に「頼む」と言われたから。  そうだよな、と脳裏のどこかで尚紀は納得する。夏木に番にされ、そのまま柊一のマンションに連れて行かれて……、柊一はいきなり夏木に世話を頼むと押し付けられていたのを自分も見ていたではないか。あの時、柊一は夏木の行動に呆れて、それでも尚紀と達也を受け入れてくれた。冷静に考えれば、柊一の言う通りだ。  ……だけど、飲み込むには少ししんどい。  自分たち……いや、自分は柊一から疎まれていたのだと、事実を知るとダメージが大きかった。  柊一の気持ちを察せなかった自分は、子供だったのだろう。どうしようもなく幼稚だった。  あの時、昨年の年末、達也がこの部屋を出る時に、自分も一緒に出ていれば、こんな柊一の本音を知ることもなく、生きられていたのかもしれない。  そう思うと、あの時達也の言葉を受け入れなかった自分を少し後悔した。それでもあの時は、柊一を一人残して去るなど、選択肢にはなかったのだ。  自分はこの先どうやって柊一と生きていけばいいのか、尚紀は途方に暮れていた。

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