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8章(21)

「シュウさん!!」  庄司によると、柊一は自宅近くの総合病院の救急医療センターに運ばれたとのこと。身元を改めるものを所持しておらず、現段階では柊一らしき男性であるとのこと。そのため、警察から経由で庄司に連絡くるにも時間がかかったらしい。  彼女の方でも詳細はわからないから、とにかく教えられた病院に行けと言われた。    ここからその病院まではさほどかからない。尚紀は近くの大通りでタクシーを拾い、その総合病院に向かった。  タクシーで救急外来の入り口まで乗り付けて、受付で事情を話すと、なぜか案内されたのは処置室や病室などではなく、施設を出たところにある別棟。  安置室だった。  鍵をかけられた薄寒い部屋に案内されて……。  そこから先のことを、尚紀はあまり覚えていない。  硬いベッドに寝かされているのはまぎれもなく柊一であったことは覚えている。  事故に巻き込まれたと聞いたが、寝ているようにしか見えない柊一が横たわっていた。  聞けば、救急車で運ばれてきたときにはもう虫の息で救急救命センターのスタッフに看取られて息を引き取ったとのこと。  尚紀は何も言えなかった。  嫌な夢を見ているようにしか思えなかった。  目の前の柊一は眠ったように穏やかで、事故に遭ったなんて想像もつかない。  思考が停止した感じがした。  何も考えられない。受け付けられない。  尚紀は、部屋の入り口から動けなくて、彼に近づくこともできなかった。  現実味のないふわふわとした感覚に囚われて、尚紀は思わずよろめいた。 「尚紀!」  気がつけば支えてくれる手。  振り向くと、そこにいたのは頼りにしている庄司。  知っている顔を見て、胸を撫で下ろした。  気がつけば庄司のほかに警察官もいて、柊一であることの確認のほか、いろいろと聞かれたが、何を聞かれたのかあまり覚えていなかった。  とにかく夢なのではないかという疑念と、夢であってほしいという願望と、ふわふわとした現実味のない感覚とに絡め取られて、何かを聞かれても、理解さえおぼつかなかった。 「尚紀……」  音が響く室内で、庄司の気遣う声が、尚紀にもわずかに聞き取れたが、それ以上の難しいことは耳に入っても抜けてしまう。  足がもつれてしまい、彼女に支えられた。  大丈夫よ、任せておいて、と彼女に言われた記憶はあった。  尚紀は、それからしばらくの間、病院の待合ロビーのソファーに腰掛け、ただただ、時間を無為に過ごしたのだった。

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