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10章(18)
「廉さん……なんで!」
なぜこの人がここにいるのか。
驚きすぎて言葉を失った。
廉はニット姿のラフな格好で、心配そうな表情でこちらを見ている。そしてここはどこだ。車の外の風景に記憶はない。どうも駐車場ではあるみたいだが、病院ではなさそうな雰囲気。
「庄司さん……」
尚紀が困惑して彼女を見ると、少し返事に困ったような表情を浮かべている。
「尚紀、何も言わずに進めてごめんね」
その一言で、マネージャーが本当に何かを企んでいたことにようやく気づく。なんとなく事情が見えてきて、尚紀の声色が少しトーンダウンした。
「それ、どういうことですか」
尚紀が庄司を見据えていると、意外にもその疑問を受け止めたのは廉だった。
「俺が、庄司さんに尚紀を連れてきてもらうように言ったんだ」
尚紀は目を丸くして驚く。
どうして廉が庄司と連絡を取っているのか。そして二人の間で、どこに連れてくるという話になっていたのか。混乱する。
「どういう意味ですか」
尚紀の疑問に廉は頷いた。
「とりあえず、ここは寒い。体調に障る。中に入ろう」
中?
そう思った途端、廉の腕が伸びてきて、背中に背負われる。驚き混乱している間にあれよあれよという間の出来事だ。
頭がいろいろと追いつかない。このまま流されていいのか。もっと考えないといけないのでは……そんな危機感が働いて、尚紀が「少し待ってください」と言うも、尚紀を背負った廉は、落ち着いたら話を聞くといって、目の前の建物に入っていく。
自動ドアを入ると、一律に並んだ郵便ボックスが目に入る。
マンションだ。
そもそも体調が悪く、なおかつ背負われていては抵抗もできない。それでも暖かい廉の背中に背負われて、尚紀は聞く。
「ここはどこですか」
「俺が住んでるマンションだよ」
想像していた言葉に、思わず後から付いてきてる庄司を見てしまう。
嵌められたらしい。
「尚紀を一人にしておくのは心配だから、庄司さんと話して、しばらくうちで預かるということにした」
しばらく? 預かる?
「だって……僕は」
病院に行くと言われて、家から連れ出されたのだから戸惑いしかない。
尚紀のそんな本音は廉には伝わっている様子で、背負い直す仕草で、優しく揺すられる。
「詳しくきちんと話すから、落ち着けって」
そう優しく嗜められる。
そして庄司は、尚紀の背中をとんとんとやさしく叩いた。
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