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10章(20)
「廉さんはいつから……庄司さんと連絡を取り合っていたんですか」
このスムーズな連携を見ると……そして庄司の廉への信頼を見ると、昨日今日の話ではないような気がしていた。
そもそも庄司は所属モデルの管理を職務としているのだから、その安全と商品価値を守るためにも安易に人を信用して個人情報を漏らすとは考えにくい。
そんな彼女の信頼を、廉はいつから得ていたのか。
「きっかけは去年の年末だな。尚紀と再会した時に帰り際に庄司さんと連絡先を交換したんだよ。野上社長も了承済みだよ」
廉の言葉に尚紀は驚く。
「え、すでに?」
廉との再会は昨年のクリスマスイブだ。あの日は横浜港で柊一の散骨セレモニーをした日で、その後庄司に事務所に連れて行かれて、廉と再会した。その日のことは尚紀にとって衝撃的なことが多すぎて、正直なところ詳細には覚えていない。だからそんなやりとりがあったと察することもできなかった。
「最後に江上さんを見送った時にね」
庄司が頷く。言われてみれば……と尚紀は思い返す。江上を見送って、野上に社長室で根掘り葉掘り聞かれて……。
その側に、庄司がいた記憶はなかった。
あの時か。
「念の為に連絡先を交換したいと言われてね」
なんのことはない、最初からだったのだと尚紀は驚く一方納得もした。
「最初は、正直連絡先を交換しても……って思っていたのだけど、あなたの体調が徐々に悪化していくに従い、江上さんがすごく親身になってくれて」
その口調から、江上が庄司の信頼を少しずつ得ていったことがわかった。もしかして、ここしばらく、庄司が病院に、と勧めてきていたのは廉の意志も反映させていたのではないかと尚紀は思えてきた。
やっぱり僕の体調がおかしいことは気づいてらしたんですね、と尚紀が吐息を漏らすように呟く。
廉は複雑な表情を浮かべた。
「察するところはね、あった。でも、俺には言いにくいこともあるんだろうと距離をとって押さえていた。ただ、ここしばらく尚紀の体調を庄司さんからも相談をされていて。いつでもサポートできるようにと準備を整えてはいた」
自分の腰が重かったから、庄司に心配を余計にかけてしまったのだろう。だって、彼女は柊一の病状も把握していたのだから、今の尚紀とあの時の柊一は容易に被ってしまう。不安だっただろう。
「庄司さん、心配をかけてごめんなさい……」
庄司は柊一のことも、あんなに心配してくれたのだ。もう少し彼女の言葉を受け入れるべきだった。
一人でどうにかできると思い上がっていたのかもしれない。身近にいる人に心配をかけるだけかけて、こんなに労力をかけてしまって。
番を失い、柊一を亡くして、これからは一人で生きていくしかないと思い込んでいた。だけど、こんなふうに周りに心配と迷惑をかけていいはずはない。
「尚紀、あなたの性格は私がよく分かっている。長い付き合いだもの。だから、私や江上さんに対してどんな思いでいるかも。でも、今はもう何も考えないで、信頼できる人を頼りなさい」
庄司の視線は自然と廉へ。
「廉さん……」
「尚紀、動けるようなるまででいいから、俺の近くにいてほしい」
そんなふうにダイレクトに言われるとこれまで虚勢を張っていた気持ちが崩れてしまいそう。そのまま頼り切ってしまう。
迷惑をかける、という理屈は通じないのだろうなと尚紀は思った。
「すみません……お世話になります」
そのように小さい声で言うと、廉が嬉しそうに頷いて、尚紀の頭を優しく撫でてくれた。
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