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10章(22)
廉の優しい手はそのまま尚紀の頬に伝って肌へ。その手はほっこりと暖かくて、見つめる廉の視線は優しげで、尚紀は少し恥ずかしくなって視線から逃れるように目を瞑る。だけどそれで安堵したのか、いつの間にか寝入ってしまった。
目が覚めると、見慣れない風景が広がっていた。視線を巡らすが、薄暗い室内で、少し考えてここが廉の自宅であることに思い至る。そうこうしていると、目が慣れてきて少しまわりの風景がかわっていた。先ほどのソファーではなかった。ここは寝室か、……廉の。
どのくらい寝ていたのかなと思う。視線を巡らせると、暗い室内で掛け時計が目に留まった。
七時四十分……を指しているように見える。
夜なのかな、と思う。
あれから一日以上経ったわけではないと思うので、数時間寝ていたみたい。でも、数時間とは思えないくらい、よく寝た感じがして、ここ最近ではないくらいに寝起きがスッキリしている。
寝心地が良かったのかもしれない。
きっとリビングのソファで寝てしまった自分を、彼が運んでくれたのだろうと思う。
尚紀は寝返りを打つ。少し身体が楽になっているのを感じている。ベッドを占拠してしまって申し訳ないけど、尚紀にとって、この場所は自宅よりも安心できる場所であるということなのだろうか……。それはそれで、少し困惑してしまう。
というより、この家は少し思い出してしまうのだ。もう今は無い柊一の家のような暖かみを。人が住んでいる気配と生活の匂いがする。しかも、それが廉であるということが、尚紀にとって何より安堵できることなのだろうと感じる。
これはなんかよくないな、とやんわりと危機感を覚える。こんな場所を覚えてしまったら、自分の部屋に帰るのが寂しくなってたまらなくなりそうだ。
廉には動けるようになるまで、と言われた。だけど、いつ発情期が起こるかわからない状況だし、そうなったらここにはいられない。
だから、ここはあくまで一時的な居場所で、根を張りたくない。安心できる場所とは思いたくないのに。
このベッドの中の暖かさに反して、不意に去来する寂しさに胸が締めつけられる。身体をぐっとこわばらせて、それに耐える。
ここから出た時に、自分は一人ということに耐えらえるかなと思ったりもする。鼻の奥がツンと辛いものが込み上げてきたが、すすり上げて耐える。そのツンとしたものが眼にもやってきたけど、ぎゅっと目を閉じて堪えた。
しかし、自分の中に渦巻くような寂しい気もちも止められない。次第に涙が込み上げてきて、抑えられなくなってきた。
今はこんなことを考えてはいけないのかもしれないけど、出て行く日のことを考えずにはいられない。
尚紀はたまらなくなってぐすりと鼻をすすりあげた。ティッシュが欲しいけど、見当たらない。少し身体に力を入れてみて、いけそうだと思って肘をついて力を入れると身体を起こせた。
薄暗い中で視線を巡らしてみる。すると不意に扉が開いて、眩しい光に晒された。
「尚紀?」
暖かい声がする。廉のものだ。
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