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10章(23)
部屋の出入り口の扉に廉が立っていた。
「起きた?」
空気がガラッと変わった。廉が少し安堵したような表情を見せる。
「起きられたんだね。あれ、どうした?」
顔がぐしょぐしょに涙に濡れているのがバレてしまったようで。尚紀が焦ってパジャマの袖で拭おうとすると、廉に止められた。
「擦ると目が腫れちゃうよ」
廉が灯りを点け、箱ティッシュを掴んでベッドサイドに腰掛ける。そして、尚紀の涙をやさしく拭ってくれた。
「起きて一人だったから……寂しくなっちゃった?」
そんな冗談のように軽く言われても、否定することも、ましてや頷くこともできなくて、尚紀は困った。半分当たっている……。
すると、廉が尚紀の涙で赤くなった目を覗き込む。
「大丈夫。尚紀はちゃんと元気になるし、一人でもない。ここでは安心して休んで」
そう廉が慰めてくれる。
「……す……すみま、せん」
「謝らなくていいんだよ」
そんな気持ちがまた胸に沁みて、新たにまた涙が溢れてくる。きりがない。尚紀がパジャマの袖先で涙を拭う。廉が不意に尚紀をやさしく抱擁した。
こんなに近づくのは初めてで、思わず驚く。
「廉……さん?」
「俺がこうやってしても平気?」
廉がそう問いかけてくる。そうかと思う、今は尚紀は他のアルファの番であるのだから、嫌悪感が湧かないか心配してくれているのだろう。
その気遣いに溢れながらも踏み込んだ行為に、尚紀は嬉しさと同時に申し訳ない気持ちも湧いてくる。
しかし、そんなことを言っても仕方がないし、廉も返事に困るだろう……。だからせめて、と尚紀はしっかり、何度も頷いた。
「それはよかった」
吐息のような声が聞こえて、廉にとっても緊張していたのだと察した。そうだろうアルファといえど、こんな面倒臭い相手にどう踏みこむか迷うだろうし、拒絶されたらショックだろうし。
だけど、なぜか廉に触れられると、気持ちが綻ぶ。嬉しくて、幸せな気分になる。それは間違いない事実なのだ。尚紀も不思議だった。廉の香りも感じないし、アルファとオメガという側面でのつながりはほとんどないのに、
「……廉さん、ありがとうございます。
その優しさが、本当に嬉しい」
尚紀は胸のなかでそう呟いた。
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