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10章(25)

「え、着替え? 大丈夫です!」  着の身着のままで出てきたので、思わず遠慮の言葉が出てしまったが、庄司が着替えを運んでくれたらしく、着替えた方がスッキリするだろうと、廉が言った。  庄司が運んできたのであろう着替えと硬く絞った暖かいタオルを持ってきてくれた。 「さすがに風呂には入れないだろうから。寝ていると汗もかくだろうし」  そうなのだが、確かにそうであるのだが。少し……かなり恥ずかしい。 「あの……自分でできるので大丈夫です」  尚紀がそういうと、廉はあっさり分かったと頷いて、食器を持って部屋を出ていった。  もともとそのようにしてくれるつもりだったようで、焦った自分が少し恥ずかしい。  自意識過剰も甚だしい……。    廉と一緒にいると感情が忙しい。  だけど、一緒にいると嬉しいし、楽しいし、安心するし。ずっと一緒にいたいとも思ってしまう。  せっかく温めてくれたタオルが冷めないうちにと尚紀は着替えに取り掛かる。畳み込まれたタオルを解くと、ふわっと湯気が立って気持ちよさそうな温かさだったので、そのまま顔に当ててみた。  あー、気持ちいい……。  力が抜けて解れる感覚。入浴できない時に身体を拭くのは、リラックス効果を狙う意味もあるのだろうな。  今廉の家にいる自分に驚いてしまっているが、おそらくあのまま一人で寝ていたら、ずっと動けないままだったかもしれないと思う。廉と庄司の思い切った決断で、自分は少しずつ動けるようになって回復していると言っていい。  一人でできると思っていたけれど、実はそうでもないのかもしれない。  廉が用意してくれた温かい濡れタオルを使って、顔を温めてぬぐい、身体を拭いて着替えをして、すっきりした。湯気が立つタオルで身体を拭くと、気持ちもほぐれるような気がした。  しばらくして、廉が洗濯物を受け取りにきたときに、一目で尚紀を見て表情を緩めた。 「一人で着替えもできて、顔色も良くなってきた」  少し血色が出てきたとのこと。 「すっきりとして、身体もぽかぽかしてきました」  ありがとうございます、と尚紀は言うと、早く尚紀には元気になってほしいしね、と廉は頷いた。 「今夜はこのベッドで寝て。っていうか、元気になるまで尚紀はこのベッドな」  そう廉がいう。  いや、一人暮らしなのだから、ベッドはこれだけだろう。 「え、それは悪いです。僕はソファでも床でも」 「は? 尚紀にそんなことをさせるつもりないよ。とりあえず、ゆっくりここで寝なさい」   「ええぇ……でも、廉さん、疲れ取れないですよ」  すると廉は大丈夫大丈夫という。別に布団があるからリビングでも寝るよ、と言うので、リビングは寒そうなので、せめてここで寝てくださいとお願いする。  すると予想外に廉が困ったような表情を浮かべた。 「あのね、俺は本気で尚紀を番にしたいんだよ」  その言葉に、尚紀は思わず息を呑む。知ってはいたけど、尚紀は叶わないと諦めている。だけど、廉は真剣だ。 「尚紀にとって親切な人だけで終わる気はないから、そのつもりでいて欲しいんだ」  だから、さっきみたいに警戒心はちゃんと持って?  廉は、普段は見せないアルファの顔を覗かせてそう言った。

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