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11章「廉さん、僕を見ないでください……!」(1)
「改めて、アルファ・オメガ科の森生颯真といいます」
初診患者であるためか、そのように自己紹介してくれた。
「……よろしくお願いします」
尚紀はかなり驚いた気持ちを押し隠し、そのように挨拶をした。
だって、驚く要素はいろいろあると思う。
廉の紹介とはいっても、まさか自分と顔見知りだったとは、とか、この人は医師になっていたのか、とか。尚紀にとっては予想外でまさかの展開だ。
ただ、廉が落ち着いた様子でじっくり話を聞いてもらっておいでと送り出してくれた理由は、大いに納得した。二人は未だに交流があるのだろう。
森生颯真は、尚紀の二学年先輩にあたり、中学時代から廉の親友に見えた。尚紀が十年以上の時を経てもすぐに気がつけたのは、いつも視線で追っていた廉と一緒にいる姿を、よく見かけていたから。
当時はとても目立つ人だった。
尚紀が通っていた私立の中学校は生徒会役員の選出方法が少しユニークで、歴代生徒会長が次の生徒会長を任命する方式だった。
尚紀が入学した年に生徒会長の地位にあったのが、当時三年生だった颯真だった。
先輩から聞けば、先代の会長から熱烈なオファーを受けて逃げきれずに生徒会長に就任したとのこと。彼が指名したという副会長の廉とのコンビは、下級生の憧れの的だった。
彼には双子の兄弟がおり、もちろん同じ苗字であるため、同級生はもとより教師からも名前で呼ばれていた。そのため下級生の呼び方も、おのずと「森生会長」ではなく、「颯真会長」「颯真先輩」で定着したのだった。
尚紀は生徒会で関係があったため「颯真会長」と口が覚えていた。
「念の為の確認で、お名前を伺ってもよいですか」
そのように問われて、尚紀は我に返る。
「あ……、はい。西尚紀です」
よろしくお願いしますと、尚紀は再び頭を下げた。
「颯真会長……」
尚紀がそういうと、彼は表情を緩めた。
「はは、懐かしいなそれ。中学時代に会長してた時は、そんな風に呼ばれていたね」
そういえば中学時代はそんなふうに華々しい活躍をしていた颯真だったが、尚紀が二年後に追いかけて高等部に進学すると、校内に彼の姿はなかった。代わりに廉の隣には、彼の双子の兄弟が常にいた。
颯真が少し呆然としている尚紀の様子に気がついた様子。
「………」
「ちょっと緊張しているかな?」
颯真にそのように聞かれて、尚紀は素直に頷いた。正直、この展開に気持ちがついていけていない。
「すみません……」
「謝ることではないよ。こちらこそ驚かせてごめんね。いきなり出てきた医者が、中学時代の先輩じゃ驚くよね」
颯真はそのように苦笑した。あの頃も優しくて格好良い先輩だったが、白衣姿になっても優しい。変わらないのかなと尚紀も思う。
「大丈夫? まだドキドキしていたりするかなな? 少し大きく息を吸ってごらん」
颯真に深呼吸を促される。吸って吐いて、と繰り返し回数を重ねることで、尚紀はなんとか落ち着いてきた気がした。
「すみません……、大丈夫です」
たしかに深呼吸で気持ちは少し整った。颯真は頷いた。
「良かった。じゃあ、まずは血液検査と尿検査をお願いしようかな。その後、少し落ち着いてお話ししましょう」
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