123 / 159

11章(2)

 颯真にそのように言われて、尚紀も頷いた。看護師に案内されて、尚紀は採血と採尿を済ませた。そして、診察室にお戻りくださいねーと看護師に再び案内され、先程の場所に戻った。  颯真は、先ほど尚紀が書いた問診票に目を通していたようだが、尚紀が戻ってきて椅子に着席すると、顔を上げて「お疲れ様」と労ってくれた。  尚紀も軽く会釈する。  採尿と採血をされて、ワンクッション置いたためか、尚紀も少し気持ちが落ち着いた。 「先ほどは失礼しました」  尚紀にとって、ここに颯真がいたことはあまりに予想外だった。廉は「信頼できるドクターだ」と言っていたけど、ここでかつての生徒会長が出てくる展開はさすがに想像できない。廉は信頼しているドクターを紹介してくれる様子だったし、製薬会社勤務であるため、てっきり評判のよい病院や有名なドクターを探してくれたのかと思っていた。……信頼という面では、彼にとってこれ以上の人はいないのだろうなと思う。 「気にしなくていいよ。それにしても、俺のことをよく覚えてくれていたね」  颯真にそう言われて、尚紀は俯く。 「……会長は有名人でしたから」 「あの学校で生徒会長なんて目立って仕方がないよね」 「颯真会長は下級生の憧れでした。廉さんと一緒にいるところとか……」 「西さんは当時廉と仲良かったよね」  そのように認識されていたのかと思うと、少し嬉しい。実際のところは自分が鈍臭かったので、気に掛けてもらっていただけだし、一生懸命付いて行っただけなのだけど……。 「……僕は、廉さんにかなりご迷惑をかけたと思います」  すると颯真は優しい笑みを浮かべて言った。 「迷惑なんて思ってないと思うよ」  多分頼られて嬉しかったんだと思うな、と。今度聞いてみるといいよ、と颯真は言った。 「さて……、少し体調のお話を聞かせてもらおうかな」  そう颯真が話題を変えた。問診に移る前に緊張を解いてくれたのだろうと思った。口調が少し畏まる。 「まず、今日はどのような症状でお困りなのか、教えてもらえますか」  口を開きかけて、すっと頭が冷えた感じがした。そういえば、番を亡くしたオメガに出現する症状は仕方がないものだと、先日のドクターが言っていたことを思い出した。  話しても仕方がないのかもと思ってしまった。 「あの……」 「些細なことでも、なんでもいいんだよ」  颯真の言葉に、尚紀は背中を押される思いだ。 「……発情期が重たいのと」  うんうん、と颯真がいちいち大きく頷いて、それを端末に入力する。 「不定期なのに……困っています」  ちゃんと言えたが、反応が気になる。これは訴えとしてありなのか。 「それはかなり辛いね。困るね」  しかし、そんな懸念は杞憂だったみたいで。颯真は尚紀を見て、共感してくれた。  ちょっとホッとする。 「疑問に思ったこととかあったら、遠慮なく言ってね。西さんがどこに困っているのか不安を感じているのか、そういうことも知りたいんだ。逆に言いたくないことは言う必要はないから」  深呼吸しつつ、リラックスだよ、と再び促される。まだ少し緊張しているよね、と言われる。尚紀も少し息苦しさを感じて深呼吸を繰り返した。 「すみません。なんかお医者さんって、僕苦手で……」  それをドクターに正直に言うのはどうなのだと、口にしてから尚紀は思ったが、後の祭りだ。嘘ではないけど、いい年してなに子供みたいなことを言っているのだと少し恥ずかしく思う。  最初に行ったアルファ・オメガ科でうまく話せなかったのを引きずっているのだろうけど……。  すると颯真は、医者が得意な人はあまりいないから大丈夫だよと慰めてくれた。  優しいドクターだな、と尚紀は気持ちが慰められた。

ともだちにシェアしよう!