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11章(9)

 尚紀は驚いて、思わず問い返す。 「にゅういん……ですか」  颯真はそう、と軽く頷いた。 「話を聞く限り、発情期はかなり体力を消耗するみたいだし、一人で発情期を越えるというのであればちょっと心配だな」  様子を見ながら、コントロールして体力温存しつつ発情期を乗り越えたほうが、精神的にも肉体的にも回復早いしね、と言われて尚紀はそうなのかと頷いた。 「ここには一人で発情期を越えさせるのがちょっと心配な患者さんが入れる病室があるんだ」  颯真がそのように説明してくれた。 「特別室」と呼ばれる個室らしく、颯真によると、防音設備が整っていて、シャワーとトイレが完備されている、通常の病室とは少し異なった部屋とのこと。 「発情期の患者さんのプライベートがしっかり確保できて、でもきちんと治療やケアができる、アルファ・オメガ科では特有の部屋なんだ」  ナースコールや急変といった緊急時にすぐ対応できるようスペアキーがあるそうだが、内側からも鍵をかけられる、発情期のオメガのプライベートに配慮された施設とのこと。 「ここが空いていなかったら、個室に隔離になるけど、どちらにしてもここでは通常のことだから安心して」  入院予約入れちゃうね、と言われて尚紀は頷いた。 「……お願いします」  あれよあれよと颯真によって決められていく。尚紀はそれに乗っているだけだった。だけど、自宅に帰るチャンスを逃し、うっかり廉の家で発情期を越えるかもしれないという心配に苛まれることに比べたらどれほど安堵できるか。 「あと、特別室なんだけど……」  と颯真の説明が続く。  特別室には使用に関して幾つかのルールがあるらしい。 「一度発情期と判断された患者さんは、それが終わるまでは出られないルールなんだ。外にはアルファの患者さんもいるので、お互いを守るためのルールだね。  あと、患者さんのプライベートに配慮された部屋なんだけど、やっぱり鍵をかけられて内部がどうなっているのか分からないのは、こちらとしても適切な治療やケアができないから、部屋にカメラがついていて常時モニターされている。だからプライベートがすべて守られているわけではないということを理解してね」  颯真によると、スタッフルームという病棟にある関係者の詰め所にモニターがあるそうだが、病棟の担当者しか確認しないから安心してほしいと言われた。  尚紀は頷いた。 「わかりました」 「発情期で入院すること、尚紀さんから廉にお話できる?」    尚紀はそう問われて少し考える。正直いうとあまり話題として出したくない。  そんな本音を察したのだろうか、颯真は尚紀の返事を待たなかった。 「うん。廉にはこの後、俺から話すから安心して」  そう言われた。 「……すみません」 「じゃあ、症状が出始めたら病院に連絡をくれるかな。そして入院の準備をして来てくれる?」  入院に関する説明はあとで看護師さんがしてくれるから、と言われ、尚紀は頭を下げた。

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