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11章(10)

「何から何まで……ありがとうございます」  颯真は、あくまで尚紀の症状が入院を必要としているという意味合いで説明してくれたが、おそらくこのままでは尚紀自身がうまく廉に説明することができずに流されてしまいそうだと心配して、そのような道を作ってくれたのだろうと思った。   「今後、発情期をどうしていくかは、今回のが終わりかけの頃に一度話そうね」  尚紀は頷いた。 「わかりました」 「それまでに発情期をどうしたいか少し考えておいてね。きっちり押さえることもできるし、自然に任せてコントロールは最低限にすることもできる。今のところ、尚紀さんの希望を優先するから」 「はい。……僕はもう発情期はいいかなって思ってるんですけど……」  そう漏らした本音に、颯真が反応する。 「……さっきもそんな感じで言っていたね」  一年半ぶりに再開した発情期は、夏木を亡くし、さらに柊一を見送って見舞われたものだった。だから「もう発情期なんて来なくても良かったのに」と言ったのは、尚紀の本音だ。  夏木を喪ってからの柊一の発情期は、少しずつ生命力が削がれていくようなものだった。それを尚紀はずっと見てきた。番がいない発情期があんなに辛いものだなんて、思いもよらなかった。いや、知らなくてよかったのに。  気持ちが満たされても、身体は楽にはならない。だけど、本人はそれに気が付かない。番と身体を重ねることが叶わない発情期とは、なんのための発情期なのか。 「番を亡くし項に跡が残ったオメガの方は、わりと発情期を亡き番との邂逅……まるで番に抱かれているような感覚に陥るらしくて。発情期を止めることを嫌がる人も多いんだ」  尚紀さんはそういう感じではないんだね、と颯真が聞いた。 「僕は番を失って、なんで項の跡が消えてくれなかったんだろうって、何度も思いました。……正直、今も思っています」  前の番への執着や絆も、それほどなかったのだと思いますと、尚紀は言った。 「あの……颯真先生」  尚紀がおそるおそる話しかける。  今自分は突拍子もないことを聞こうとしていると尚紀は自覚していた。  これまで聞くことさえ愚問であると思っていた。明快な事実で、もうどうにもならないと思っている。  だけど、あえて聞いてしまうのは、希望を見出したいと、本音では思っているためなのだろう。  完全に否定されて、改めて受ける必要のないショックを受けるのは自分なのに。 「なに?」 「失った番が付けた項の噛み跡が残ってしまったら、その後絶対消すことができないのでしょうか」

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