136 / 205
11章(15)
タクシーは早朝の国道と有料道路を、渋滞にはまることなく駆け抜け、みなとみらいの誠心医科大学横浜病院まで送り届けてくれた。
オメガの女性ドライバーは尚紀を心配して、荷物を抱えて病院の救急外来の受付まで付き添ってくれた。少しずつ症状が出てきていることを自覚していた尚紀は、一人で歩くのもしんどかったのでとても助かった。
「頑張ってくださいね。もう少しですから」
最後まで親身になってくれた女性ドライバーにかろうじてお礼を言って、待合ロビーのベンチに座り待つ。
人の優しさが本当に身と心に染みる。自分も余裕がある時には、人に優しくありたいと思う。
すん、と嗅覚が働く。
かなり香りが立ってきた気がする……。
あ、マネージャーに連絡していないなと、ここで思い至った。スマホを取り出して、メッセージアプリで一言連絡を入れた。こんな早朝でも既読がすぐに付き、スタンプが返ってきた。いつもはこれで電話が来るのだけど……、と思いながら、尚紀は目を閉じた。
「大丈夫?」
尚紀がその次に目を覚ましたのは白い部屋。覗き込んでいるのは颯真だった。
どうやらベッドに寝かされているらしい。
「……そ、うませんせい……」
ここまで来て疲れちゃったかなと言われて、尚紀は首を横に振った。
「……だいじょうぶです」
「待合室で待たせてごめんね。呼びに行ったら蹲ってて少ししんどそうだったから」
ぼんやりとしている尚紀を颯真と看護師がここまで運んでくれたそうだ。
「すみません……」
「無理することないからね」
そう言ってくれるが、まだ身体は大丈夫な気がする。気分が落ち込んでいただけで。
いろいろと準備をしている風景をぼんやり見つつ、辺りに視線を巡らすと掛け時計が目に入る。
まだ七時を回ったところだ。
「朝早くに……すみません」
そう言うと、すっかり日常業務に入っていそうな颯真が笑った。
「あはは。今日は早めに出ようと思っていたし大丈夫。それに、病院だけじゃなく廉からも連絡が来したしね」
廉も颯真に連絡を入れてくれたようだ。
尚紀さんが気にすることではないよ、と颯真がフォローしてくれた。
「ちょっと発情症状は落ち着いたかな」
そう言われて、尚紀は頷いた。
「……波は引いた感じです」
ともだちにシェアしよう!