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11章(16)

 経験では一過性であり、また発情症状は波のようにやってくるのだけど。 「そうか、じゃあちょっと診せてね。この間のように、パンツと下着を脱いでもらえる?」  特別室に入るために発情期の診断が必要だからねと言われて、そうかと思う。  素直にベッドから身を起こし、パンツを脱いで、下着を取り去る。発情期になると、衣服を取り去るとすっきりする。発情期がそういうものだからだろう。颯真の診察も、二回目ということもあるだろうが、前回よりも抵抗感が少ない。多分発情期だから。  大きなタオルを掛けて再び横になり、声を掛けると颯真が顔を見せた。 「この間みたいに、仰向けで膝を立ててくれる?」  ゆっくり深呼吸しながらね、と言われる。  尚紀がタオルの下で言われたように体勢を整えると、ラテックス手袋をした颯真が、立てた膝の上にタオル越しに手を添えた。 「足を開いてね。すぐに終わるから、力抜いて、リラックスして」  絶えず声をかけてくれる颯真の言うとおりに、尚紀は大きく深呼吸を繰り返す。 「はい、失礼します」  タオルが外されて、下半身が冷たい空気にさらされる。その場所が広げられて、くいっと颯真の指が入ってきた。  少し驚いて身体がびくつく。素早く察した颯真に怖くないよ、と慰められた。  その指が中を少し広げた感じがして、くるりと回された。  尚紀は大きく深呼吸しながら、終わるのを待つ。だけどその時、不意に込み上げてくる、嗚咽のような、どうにもならない感情に巻き込まれた。  どうして自分は、発情期に病院で過ごそうとしていて、今診察を受けているのだろうかと。  何も生み出さない無意味な発情期。  さっき、無理やり蓋をした不穏な感情が、溢れてきた感じだった。  それは、自分の行動の責任だ。  これは颯真の指で、今自分は診察を受けているのだ。一人で発情期を越えられないから。入院までして。  発情期は、世間では幸せなものと捉えられている。愛する番と肌を重ねて愛を交わして、その種を未来に繋ぐ……。二人で過ごす大切な時間。  なのに自分は、そんな幸せな発情期なんて知らない。きっと、一生知ることはできない。 「……んっ……」  込み上げてくる嗚咽に、尚紀は思わずタオルを引き寄せ止める。  だけど、不穏な気持ちが溢れてしまってどうにもならない。  なんでこんな情けないことになっているのか、自分を今更責めても仕方がないのだけど、その気持ちを無視できなくて、仰向けで診察室の天井を見ながら、涙が溢れてきた。白い天井が、潤んで歪む。 「尚紀さん?」  様子の異変におかしいことに気がついたか、颯真が声を掛けてくる。もしかしたら足元からこちらをみているのかもしれないが、尚紀の視界は涙に濡れて、よくわからなくなっている。タオルを引き上げて、涙を拭う。   「どうした? 大丈夫?」  そう優しく颯真が声を掛けてくれる。いつのまにか診察は終わっていて、ラテックスグローブを脱いだ彼の温かい手が、尚紀の頬に触れる。  尚紀はいろいろと込み上げるものを押さえて、無言で頷いた。 「発情期が始まってるね。特別室に行こうね」  颯真の言葉に、尚紀は涙目で無言で頷いた。 

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