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11章(25)
ただ一つ、気がかりなことがある。
「あの……颯真先生」
「ん?」
尚紀は少しどう切り出そうか考えた。なんでそんなことを聞くのと問われたら何も言えないし、もしかしたら気分を悪くしてしまうかもと思った。ただ、どうしても確認しておきたい。
「僕の番について先生にお話しするのはいいのですけど、それを……颯真先生は……、廉さんに話したりしますか?」
颯真は少し驚いた表情を見せてから、首を明確に横に振る。
「いや、しない。そこは信用してほしい。尚紀さんからここで聞いた話は他言しないよ」
明確な否定の言葉を聞いて尚紀は安堵とともに少し申し訳ない気持ちになった。思わず唇をかむ。颯真を信用してないと受け取られてしまったかも。
「すみません……」
「気にしなくていい。尚紀さんは廉に知られるかもっていうのが心配だったんだね」
颯真にそう言われて、尚紀は曖昧に笑うだけにした。
廉は、番について聞いてくることはない。それは多分、あえての行為だと尚紀は思っている。興味がないのか、知りたくはないのだろう。
しかし、それは廉に知られたくないと思っている尚紀にとっても好都合だった。
「全部、自分の責任なので……廉さんには言えない。知られたくないんです」
自分がここで発情期を越えるために入院していること、廉とは番になれないこと、夏木というアルファの番にされてしまったこと。
そして、他のアルファの番として廉と出会わなければならなかったこと。
これまで何度、自分の浅はかさを後悔しただろう。
「尚紀さん……」
颯真は何かを言いかけたが、尚紀はそれをあえて遮った。きっと慰めてくれると思うのだけど、それは不要だ。
「僕の番ですが、亡くなった原因は病気とかではなくて……殺されました」
颯真に視線を向けられなくて反応は読み取れなかったが、一瞬間が空いて息を呑んだ気配がした。さすがのアルファのドクターでも予想外だったのかも、と思う。
番を殺されたオメガなんて、そうそういないと思うし。
「すみません。洒落にならない話で……」
尚紀の謝罪に、颯真が首を横に振る。
「いや、なんで謝るんだよ。それは本当に辛い出来事だったね。そんな別れ方だったとは。もっと早くに聞いておくべきだった」
「いいえ。僕の番は……納得の上だったと思うので」
「納得の上?」
「自分はこんな仕事をしているから、いつ死んでもおかしくはないと言っていました。
刺されて亡くなったんです。ヤクザっていうか、暴力団の関係会社の社長で……酷いこともしていたらしいから」
「トラブルで揉めて?」
尚紀は頷いた。
「……だと思います。でも、詳しいことはよくわからないまま。勝手に逝ってしまいました」
勝手に。
それは咄嗟に口から出た言葉だったけど、本音に近いかもしれない。
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