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11章(28)

 でも……と、やはり気になるのは……。  表情を曇らせた尚紀に、颯真が「やっぱり気になる?」と自分の項を指差した。  尚紀は困ったような表情を浮かべる。 「堂々巡りになりますけど、僕はやっぱり廉さんの番にはなれませんから……」  その中でどう折り合いをつけていくか。自分は相手として本当に廉に相応しいのかを考えてしまう。あの優しいアルファと一緒に生きる資格があるのだろうか。 「案外、尚紀さんは番にこだわるね」  颯真がそう言った。番にこだわる……そうだろうか。アルファとオメガがいれば、番うのが自然だと思うのだが。  そんな疑問が浮かんで、尚紀は颯真を見たが、彼は苦笑した。 「そんなに不思議な話をしているかな」 「いえ……」  そう否定はしても、尚紀には颯真の言葉がいまいちピンとこなかった。だってアルファとオメガは番うものだろう。    すると、颯真が意外なことを言った。 「んー。そうだな……。俺は仕事柄、多くのアルファやオメガの人たちとお話をするのだけど、中にはいるんだよね。番と死別して、項に跡が残ってしまってその影響に苦しんでいながらも、新しいパートナーと出会った人」  尚紀は颯真を見返す。まさに尚紀と同じ立場だった。 「そんな方いるんですか……?」 「いるよ。多いわけではないけど、いないわけではない。  ただ、尚紀さんの場合、そうやって番になれないことに拘るのは、初めての発情期で番関係になったためかもしれないね。アルファとオメガと言われれば、その関係性しか知らないから、選択肢も限られる」  夏木に容赦なく番とされたあの頃、尚紀は無防備で、オメガとしての知識もゼロだった。なにせ自分の発情期さえ自覚がなかったのだから、オメガの生き方など、それまで考えたこともなかった。  ねえ尚紀さん、と颯真が呼びかける。 「廉が、診てほしい人がいると、尚紀さんの話を持ってきた時ね……」  それは驚くことに年が明けてしばらくしてのことだったという。尚紀が年明けの発情期で苦しんでいて、廉との再会さえままならなかった、あの頃の話。廉がそんなに早く動き出していたこと、あの時からこのような形になると見通していたことに、尚紀は驚いた。 「感じたんだよ。あいつ自身が自分の中でいろいろと覚悟を決めて来たなって」  十五年近く付き合っていて、ああいう廉を見たのは初めてだったと、颯真は振り返った。  颯真の言葉に尚紀は強く惹きつけられる。 「廉はきっと尚紀さんが誰かの番であることは百も承知だったと思うし、それでも君の力になりたいと考えたんだろう。  だから、尚紀さんが気にしていることは、廉には障壁ではないかもしれないよ」  確かに、これまで自分は死別したアルファの番であると言っても、それがどうした、といった様子だったし、実際に噛まれた項を見せても動じなかった。  ちゃんと廉と話をしてみて、と颯真に促される。 「自分の気持ちと向き合って、廉にさっきの気持ちを伝えて、彼ときちんと未来の話をしてみよう?」  颯真が尚紀に促す。 「颯真先生が仰っていた、項に跡があっても新しいパートナーと出会った方たちは、どういう関係性を結んでいるんですか?」  颯真はその問いかけには答えてくれなかった。 「そこは自分たちのこととして、廉ときちんと話してごらん。俺が言うことでもないし、ちゃんと考えていると思うから」  そして、尚紀さんと廉の気持ちをうまく繋ぐことができたら教えて、と颯真は言った。

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