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11章(33)
コートを脱いで、ハンガーにかけると廉によってあれよあれよとリビングのソファに横にされてしまった。尚紀は大丈夫です、と言ったのが、一週間病院に籠っていたら、確実に体力は落ちているはずだから、とゆっくり休めと言われてしまった。
そう言われると、確かにそうだ。タクシーで移動しただけ、座っていただけなのに、ぐったりとした疲労感があるのも確かなのだ。……ただ、どのタイミングでこの部屋を出ていくと廉に言い出すか、そんな気疲れであるような気もしている。
廉は帰宅してからあれこれと動いている。あとで自分でやると言ったのだが、荷解きもされてしまった。いよいよ出ていく雰囲気ではなくなってしまって……。
尚紀は焦る。
明日になればもっと部屋を出づらくなるような気がしているし、そもそも言い出しにくくなりそうな気がしている。
しばらくすると、一通り家事を終えた廉が、尚紀が横になるソファの元に腰をおろした。
「お疲れ様でした。なにからなにまで、ありがとうございます」
尚紀がそう労うと、廉は少し困ったような表情を浮かべた。
「ちょっと強引だったかな」
「え」
「尚紀がそろそろ自分の部屋に帰るっていい出しそうな気がして、勢いでここまで連れ込んでしまった」
そう言って肩をすくめた。廉はやはりわかってやっていたらしい。
「廉さんには、そんな風に見えたんですね」
自分の少し緊張した気持ちが彼に伝わってしまっていたようで、恥ずかしい。身体を覆う毛布に顔を埋めたくなる。
「尚紀がずっと遠慮がちにそわそわしていたからね」
廉は苦笑した。すべてお見通しだった様子。
「尚紀からみると、俺の家よりも住み慣れた自分の部屋の方が、ゆっくり休めるとは思うんだけどね……」
廉はそう言って頭を掻く。
「いつ出ていきますって言われるかなって。俺としては、ここでもゆっくりできるよって言いたくてさ」
「そんな……」
自分の優柔不断な挙動が、廉を困らせてしまっていたことに尚紀は気がついた。
はっきりさせないと、と意を決して、尚紀はソファから身を起こした。
「廉さん」
尚紀が呼びかけると、廉が顔を上げた。
「……正直、僕も、いつまでもここでご厄介になるわけにはいかないなって、思っていて……」
最初は動けるようになるまで、という約束でしたから、と尚紀は言う。
廉は、たしかに、そういう話だったと頷いた。尚紀が意外に思うくらい、廉の声のトーンが落ちた。
「廉さんのお部屋は、僕にとって居心地が良くて、ついついこのまま居たくなってしまうんです」
尚紀は息を吸って吐く。呼吸を整えて、廉さん、と呼びかける。
「廉さんのことが好きです。僕は再会できて本当に幸せで……」
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