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11章(34)
尚紀が初めて口にした本音に、廉は表情を綻ばせた。
「嬉しいよ、尚紀。嬉しい。ありがとう」
廉の反応を見て、尚紀も安堵と嬉しさが込み上げる。とはいえ、きちんと言わねばならないこともあって、憂鬱になる。
「でも、やっぱり僕は廉さんの相手として相応しくないです……」
廉であれば、そんなことはないと言ってくれるかもしれない。だけど否定してほしいわけではなくて、事実なのだ。
廉は表情を曇らせる。
「なんで」
尚紀は俯いた。
「僕は、どうしたって貴方の番にはなれませんから」
改めて口にすると結構なダメージだ。廉と再会したクリスマスイブを思い出す。あの時と比べると廉に予想外に大切にしてもらえて、生活を共にしたりして、夢のような日々を送っている。なのに、なんの運命の悪戯か、廉とは根本的に番という糸で繋がってはいない。いくら本能が判断する番だと、互いが思っていても、物理的に番うことは叶わない。
「それは……尚紀の項に跡が残っているからという意味?」
廉の静かな問いかけに、尚紀は無言で頷いた。
もしかしたら、これから将来この項を消す方法が見つかるかもしれない。だけど、現段階ではそれはない。もう一度言う。
「僕は、廉さんにふさわしい相手ではありません」
すると廉は、少し考えて、尚紀の元から少し離れた。奥にある書斎から、何かを持ってきた様子だ。尚紀は少しいたたまれない気持ちで、それを静かに待った。
廉が戻ってくると、どこかふわりと新鮮な香りがした。
うつむく尚紀に、廉が差し出したもの。
それは、三輪の青いバラと、それを包むように小さな花を咲かせる真っ白なカスミソウの花束だった。
青いバラの高貴で華やかな雰囲気と、カスミソウの白くて小さな花の可憐な雰囲気が、混じり合って美しい。
尚紀は驚いて、その花束から視線をそのまま廉に辿る。
「これは尚紀に。退院祝いじゃないよ。
帰ってきたら渡そうと思っていた俺の気持ちだ。受け取ってほしい。どんな尚紀でも、俺は愛している。それは変わらない」
「廉さん……」
力強い告白に、尚紀は言葉を失った。
廉は尚紀の反応に構わず、手にしている花束を尚紀に渡す。
「ブルーローズの花言葉って知ってる?」
ふと問いかけられて、尚紀は廉を見て首を横に振る。花言葉なんて尚紀の知識には全くない。
「『奇跡、夢が叶う』というそうだ。もともとブルーローズは自然界には存在しえない色なんだそうだ。品種交配でも実現しなかった。それでも人々の憧れだったんだろうな。その頃の花言葉は『不可能』。だけど、遺伝子組み換え技術が発展したことで、こんな美しい花が生まれた。その時に花言葉が『不可能』から『奇跡』に変わったそうだよ」
奇跡、夢が叶う。なんて素敵な花言葉だろうか。今の尚紀には少し眩しい花言葉。おもわず見入ってしまった。
「ブルーローズを三輪の花束にすると、花言葉が変わる。その意味はね、『愛する貴方に出会えたのは奇跡』というそうだ。俺の、正直で大切にしたい気持ちだ」
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