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12章「だけど、僕たちは新たな可能性に出合ったんです」(1)

「そうか、無事に決着がついたか。よかったね」  尚紀は颯真に指示されたとおり、週明けに誠心医科大学病院を訪れた。発情期が終わってから早めにフェロモンのコントロールを始めようと言われていたためだ。尚紀が再び病院を訪れたのは火曜日の午前だった。  颯真に呼ばれて診察室に入り、挨拶もそこそこに、颯真に顛末を聞かれた。  で、廉とはどうだった? と。  尚紀は素直に、無事に廉さんと気持ちを通わせることができました、と報告すると、彼はにっこり笑った。 「それは良かった。尚紀さんの主治医としても、廉の親友としても喜ばしい。末長く彼をよろしくね」  そんなふうに颯真に言われるとは思わなくて、尚紀は驚いて、少し恥ずかしくなり、はいと頷いてから俯いた。 「で、どうするのかな。しばらくは廉と一緒に暮らすの?」  アルファが放っておくはずないもんな〜と颯真はお見通しの様子。どこか楽し気でもある。  颯真先生もそうなのかな、と尚紀は思いつつも頷いた。 「はい。とりあえず、僕が仕事に復帰するまでは廉さんのおうちでお世話になることになりました。こちらの病院も比較的近いから、と」  それも廉と話し合って、マネージャーの庄司はもちろん、事務所社長の野上からも了承を得た。仕事が入るようになれば、生活リズムも変わってくるため、その都度話し合おうということになった。  庄司によると、しばらく……体調が安定するまでは仕事の予定を入れていないが、オファーは来ているらしい。  まずは、先日リスケしてしまった撮影の仕切り直しだ。 「しばらく廉と一緒にいるなら、安心だな」  颯真も頷いた。廉と颯真のお互いへの信頼感は厚いなあと尚紀は思う。 「廉さんは、僕が誰かの番でも構わないって言ってくれました。本音かもしれないけど、でも僕はやっぱり廉さんの番になる……項の噛み跡を消す方法があるのなら試したいです」  これまでは颯真の「将来的に項の跡を消す方法が出てくる可能性は高い」という言葉を信じたくても、希望として見出すことは難しかった。尚紀が、項に跡が残っていること自体に絶望していたからだ。  だけど、廉がそこまで言ってくれるならば、どんな方法でも試したいと思うようになった。  廉は、番うこと自体は二人の人生の選択肢の一つでしかないと言ってくれたが、尚紀の中で考えが変わった。  オメガの項の跡が消えなければ、発情期に身体を繋げることはできないし、となると子を成すことも叶わない。  これまでオメガとして子供がほしいなんて一度も思ったことがなかったのに、廉と気持ちを通わせてみて、普通の番のように、彼と発情期に交わり子供がほしいと明確に願うようになった。  オメガとして、ごく自然な気持ちの変化のように思えた。

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