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12章(2)

 尚紀自身は、いまは夢のような時間で、おそらく欲が出ているのだと自己分析していた。  だけど、そんな風に欲するのもいいのではないかと思うようになった。  十七歳で一度全てを失い、そしてその後に築いたものも仕事以外は失った。望んだことは叶わないのが人生だと思っていた。だけど、廉と気持ちが繋がったことで、そんなこともあるのだと。自分のこれまでの人生からすると、ただひたすら生きてきたことへのご褒美のように思えるが……、それならば少しくらい願ってもいいのではないかと思えた。  そんな尚紀の心情の変化を颯真は察したのか。 「少し踏み込んだことを聞くけど、二人はどこまでスキンシップできてる?」  颯真の突然の質問に、尚紀は戸惑う。  スキンシップですか? と。 「どこまでって……?」  尚紀の疑問に、颯真は少し考えて、具体的に例示してくれる。 「手を繋ぐとか肩を叩くとか、たとえばハグはできてる? キスはできる?」  颯真の説明に、尚紀は少し考える。そういえば、退院の時にも、思わずといった勢いで廉に飛びついたので……。 「番がいるオメガは、番以外とスキンシップすることに躊躇うし、下手をすると嫌悪感を覚えることもある。アルファもフェロモンに反応しているわけではない。  ベータのカップルと違うのはやはりフェロモンの影響だから、二人はどこまで互いを許せてるかなって確認したくて」  そうかと尚紀は改めて思う。廉はいつもためらいがちに尚紀に触れてくる。それは、廉も尚紀も互いにどこまで触れても問題ないか分からないからだ。  アルファとオメガながらもフェロモンで惹きつけ合わない関係である以上、配慮も必要ということだ。 「多分、ハグ……抱き合うくらいでしょうか。それ以上は、やったことなくて……」  言葉が沈む尚紀に、颯真が手を横に振る。 「無理にしなくていい。すべてはこれからだから。尚紀さんがフェロモンを抑えていくに従い、番の影響も薄まっていく。廉との距離感も縮まっていくと思うよ。探り探りやってみてね」  デリケートな問題だから、二人で無理せず確認し合ってね、と颯真に言われる。 「気持ちじゃなくて、あくまで前の番の影響だから。難しくても落ち込まなくていいんだよ」  そのように慰めてくれた。 「これからフェロモンのコントロールを始めるけど、尚紀さんのように気持ちが繋がった相手がいる場合、ゴールはそこだから。  二人がなんの障壁もなく身体の関係を結べるところだな」  颯真が唐突に示した治療のゴールという言葉に、尚紀は目を開いた。  目指すべきゴールがあるとは思わなかった。  思わずストレートに聞いてしまう。 「僕は廉さんと、そういうことができるようになるんですか?」

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