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12章(7)
廉が最後までゼリーを食べさせてくれて、お気に入りのスポーツドリンクを飲んで落ち着いた。
少し横になったらいいと促され、再びベッドに横になる。ベッドサイドに腰を下ろした廉が、尚紀を優しい眼差しで見つめた。
結局、尚紀は、この家の寝室をずっと使わせてもらっている。退院後、尚紀の仕事が始まるまで同居するという話になった時、尚紀は寝室を廉に返すつもりだったのだが、別の場所に尚紀を寝かせるわけにはいかないと、二人の間で意見が対立した。
廉は廉で、尚紀が入院している間、書斎に使っている部屋に簡易ベッドを入れたとのことで、寝室を使われても全く困っていないとのこと。
そうまで言われて固辞するわけにもいかず、そのまま使われてもらっているというわけだ。
「病院はどうだった?」
そう言われて、採血をしたこと、フェロモン量がやはり発情期明けにしては高いことから、少し強いフェロモン抑制剤を飲むことになったという話をした。
ただ、スキンシップの話については、恥ずかしくて廉に話すことはできなかった。
「少し強い薬かあ」
廉がそう言って考え込んだ様子。
「結構しんどいね。今、体調がすぐれないのは、そのせいかも」
廉に処方された薬はどこにある? と聞かれ、自分が持っていたボディバッグの中と尚紀は答える。
開けてもいいかと聞かれて、尚紀は頷いた。
廉が尚紀のボディバッグを持ってきて、それを目の前で開けられる。廉の手が取りだしたのは薬袋。それを覗いて、中身を手のひらに乗せた。
包装された小さい錠剤が廉の手のひらに落ちる。
「ああ、これか」
廉はなぜか納得した様子。
「尚紀のその身体の怠さは、やっぱりこの薬の副作用だろうな」
副作用?
尚紀は驚く。
「副作用って、悪夢って聞きましたけど」
それも副作用の一つなんだけど、と廉は言う。
「颯真に言われなかったかな? 悪夢のほかに、身体が怠くなったり気分が悪くなったりすることもあるんだ」
……悪夢、と言われたのが意外でそちらの方に気を取られてしまったのだけど、そういえばだるくなるとかも言われたような気がする。
「じゃあ、このだるさは副作用……?」
今夜様子を見よう、と言われた。
「この薬に限らず、医薬品は効能効果がある反面、どうしても副作用が出る。指示通りに服薬しても、出てしまう人には出てしまうんだよね。強い薬ならなおのこと」
合わなったのかもしれないねと廉に言われて、がっかりしたが、わずかに安堵もした。この不調は柊一のことを思い出したためかもしれないと考えてしまって、柊一に対して申し訳ない気持ちもあったからだ。
「……ありがとうございます。廉さん、詳しいですね」
すると、廉が苦笑して薬を掲げた。
「うちの会社の製品なんだ、これ」
「え?」
思わぬ返事に尚紀は驚く。
廉が薬の包装フィルムを見せてくれる。裏返すと、英文字のMが二つ重なったようなロゴがあって、それが「森生メディカル」の製剤ロゴなのだそうだ。
「効き目はあるんだけど、ちょっと副作用が強いやつなんだよ」
薬剤を眺めながら、廉はそう言った。
「廉さんはそういうお薬を作っている会社に勤めてるんですね」
自分が飲んでいる薬が廉が作っている会社のものということに、不思議な縁を感じた尚紀だった。
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