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12章(11)
治療を受ける自分が頑張れば、この治療法は成功して、廉と番になれるのではないかと、尚紀は単純に考えた。
ここまできて頑張れないことなんてないと思っている。
自分のこれまでの人生を振り返ると、結構なハードモードだった。一つ一つの出来事を辿ると、今でも胸が痛むことは多い。だけど、それを乗り越えてきての今がある。廉が傍にいる今、尚紀はどのような困難があっても乗り越えられるような気がしている。
すると、隣の廉は優しく頷いてくれる。
「そう。この治療法は尚紀の頑張りが必須だね」
だけど、と言葉が続いた。
「それだけではまだ難しい」
そう言って、視線を颯真に流す。すると目の前の颯真も頷いた。
「そう。尚紀さんに頑張ってもらう時はいずれ来るんだけど、それはまだ先って感じかな」
「まだ先……?」
「治療法としては……まだ模索段階なんだ。スタンダードといえる標準的な治療法が確立されていないから、今はそれを作り上げていく段階」
「まだまだこれからってことですか?」
尚紀の端的な問いかけに、颯真が頷く。
「そうなの。今、俺がこうして話しているのは、二人はこの治療法との相性がかなり良さそうだなってことと、……そうだな、尚紀さんに希望を持って欲しいって気持ちもあって」
尚紀は戸惑ってそのまま反復する。
「希望、ですか」
「そう。医療はこうして日進月歩で進んでいるよって。手を伸ばせば叶う距離に希望があるって、俺が尚紀さんに伝えたかったんだよ」
それは颯真の真心であると尚紀は感じた。
「……颯真先生」
尚紀はあくまで廉と番いたいという希望がある。それはおそらく、オメガはアルファと番うものであるという人生しか見てこなかったため。
廉は尚紀と番うことは人生の選択肢の一つに過ぎないと言う。それだけが選択肢ではないと尚紀も理解はしている。だけど、アルファとオメガは番うもの、というのは尚紀自身も容易に変えられない価値観といえた。颯真はそんな尚紀の気持ちを理解してくれているのだろう。
廉と番うことができる道筋がある。それだけで、颯真が言うように大きな希望だ。
「わかりました。僕も、その時が来たら頑張ります」
「まずはフェロモンをきちんとコントロールできるようになろうね。尚紀さんはなかなか手強そうだから、一緒に頑張ろう」
「はい。僕は、廉さんの番になりたいです」
尚紀のそんな強い気持ちが伝わったのか、廉が優しい笑みを浮かべて、それまで握っていた尚紀の手の甲にキスをした。
「れれ……れんさん!」
尚紀は驚いて声を上げる。すると廉は顔を上げて、笑みを浮かべる。
「ごめん。あまりに尚紀が健気なことを言うからうれしくなってしまって」
いけるかなって、勢いでいってしまったと廉。
尚紀は慌てる。目の前には颯真がいると思い出す。おそるおそる颯真を見ると、彼は微笑ましいといった表情で笑みを浮かべた。
「スキンシップ、進んでるじゃん」
すると廉は颯真に向かう。
「尚紀は可愛いな。切実にキスをしたいんだけど、大丈夫かな」
すると颯真が嗜める。
「それは少しずつ進めていったほうがいいかな。フェロモン療法で効果が出てくると、徐々に受け入れてもらえるようになるから」
あからさまにしゅんとする廉。
「そっか。もう少し我慢か……」
「ガンバレ」
アルファ同士で頷き合った。
尚紀はただひたすら恥ずかしい。と同時に、廉は元番の影響がなくなるまで、きちんと待ってくれているのだと実感した。
同じ方向を向いているのだと実感できて嬉しい。
「廉さん、僕頑張ります」
尚紀がそう宣言すると、応じるようにやさしく手を握り返してくれる。
廉がキスした手の甲に、尚紀は顔を近づけた。ふわりと感じる廉の香り。尚紀は自分で口許が緩んだのがわかった。とてもうれしい。自分から廉の香りがするのが。
この人の香りを身に付けたい。
「尚紀のペースで少しずつ、ね。くれぐれも無理はするなよ」
大丈夫、俺たちは、と廉の言葉に尚紀も力付けられる。
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