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12章(12)

 それから廉を交えて、今後の治療方針に話は移っていった。颯真からすると、尚紀の身体のことは廉も承知しておくべきという意志の表れなのかもと尚紀は感じた。実際の発情期は廉に見られたくないが、自分の体調や状況を知ってもらうのは、少し……いやかなり恥ずかしいのだが、拒絶する気持ちはない。  颯真にはいろいろ話してあったので、廉に知られたくないことは適度にぼかされて、説明が進んだ。  颯真の考えとしては、発情期になれば尚紀は入院した方がいいとのこと。フェロモンが安定してくれば発情期の頻度も減り、症状も軽くなってくると予測されるが、そこに至るまで……、いや尚紀の体質にあったフェロモン抑制剤が見つかり、ある程度の効果が見られるまでは、体調と服薬状況を鑑みてこまめな通院を続け、発情期になれば入院というのが基本方針になる。 「コントロールはまだまだ難しいんだな」  廉の言葉に、颯真も少々難しそうな表情を浮かべた。 「お前も分かってると思うけど、今のフェロモン療法って効果があるものが患者さん個々によって違うから、体質に合う組み合わせを地道に探していくしかない。まだ少しかかると思うな」 「俺ができることって?」 「この間の副作用は、お前じゃないと無理だったと思うよ。よく見ていてほしい。尚紀さんはフェロモンも安定していないから、いきなり発情期の症状が出ることだってある。そうなると本人に判断はできないかもしれない。その時頼りになるのはお前だからな」 「なるほどね。わかった。俺は尚紀の体調にいつも以上に敏感になればいいんだな」 「そうだな。あと、ヒート抑制剤も出す」 「それは助かる」 「足らなくなったら言ってくれ。尚紀さんは番がいるから問題はないと思うけど、念のためな」  尚紀は、颯真を見る。  自分が放つ香りは、未だ夏木を番とするもの。尚紀はこの香りを廉に感じさせたくないと思っているが、廉は尚紀の香りを爽やかでいい香りだと言ってくれた。  この香りを廉に感じさせているうちは、フェロモンを押さえているとは言えないし、彼と結ばれることも難しいのだろう。逆に、この香りがフェロモンとして廉に届く時は……。 「尚紀さんも遠慮しないでいいから、廉を頼って。まずは体質に合う抑制剤が見つかれば、少しずつコントロールもできるようになって楽になってくと思う」  余計なことは考えないと振り切り、尚紀は颯真を信じて付いていこうと改めて思った。 「はい、颯真先生。僕はがんばります」  ペア・ボンド療法の臨床試験については、もっと段階が進んでから正式に話があるだろうということだった。  二人は颯真から処方箋を受け取り、診察室を出て会計を済ませて病院を後にした。  二月の終わり。海沿いのみなとみらいには冷たい風が吹き付ける。お昼前に病院が終わったので、どうしますかと、尚紀が廉に尋ねると、彼は少し寒いけど散歩しないか、と誘ってくれた。 「楽しそうです! しましょう」  それはデートだ!  尚紀は正直このままタクシーで帰るのは寂しいなと思っていたから、即反応した。

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